ライダーを守る三種の神器(その1) : グローブ(02.04.21)


ずいぶん前の話になるが、会社の女性が帰宅途中の明治通りで、交通事故の発生直後の現場に居合わせたそうだ。転がったバイクと救急車が見えたので、バイクと車の接触事故のようだ。しかし、事故に遭ったライダーと思しき少年はピンピンしていて、救急隊員と共に、何やらしきりに、路上と植え込みの中を探し回っている。やがて、「あった、あった!」と、その拾い物と一緒に少年は救急車に運ばれていった。捜していたのは、ちぎれた指だった。きっと、指の欠けた手を見て、まだくっつくかも知れない、と駆けつけた救急隊員が捜し始めたのだろう。

今でもそう呼ぶかどうか知らないが、私がバイクに乗り始めたころは、ヘルメット、ブーツ、グローブはバイクに乗るときの必需品として「三種の神器」と呼ばれていた。ヘルメットは着用義務があるからだれもがかぶることになる。だが、ブーツとグローブはツーリングやレースの場合はともかく、日常の足替わりにバイクに乗る人は、案外軽視しているかも知れない。事故に遭った少年は、グローブをしていなかったのだろう。

バイクが転倒したときに、まずライダーを守るために無意識に動いてくれるのは両手両足だ。そんな起こりうる事故のためばかりではなく、手の体温が風のために下がることを防ぎ、スロットルとレバーの操作をスムーズにしてくれるグローブは、もう体の一部のように大切なものだ。

最初に私が買ったグローブは、ちょっと革が厚くて、指の動きも重く感じられた。買い直したグローブは薄手のタイプで、これが手に良く馴染んで、長いこと愛用した。10年も使い続けたが、ついに継ぎ目が裂けてきたので、先日新調した。二輪関係のショップへ行ったら、今やウォッシャブルという革グローブまである。どの程度の耐水性を言うのか実際のところは知らないが、雨の日のことを考えると、そういう付加価値は意味のあることだ。私は結局、しなやかな革の感触が気に入ったクシタニのグローブにした。私の愛用ブーツがクシタニのせいもあったか。

私は駅まで毎日通勤に原付きバイクに乗る。僅かな距離だが、グローブをしないと不安になる。その原付きバイクは、ヘルメット着用義務が法制化されたとき、販売が激減したものだ。ヘルメットなしに乗れる手軽さが原付きのウリだったから。自転車感覚の原付きだから、暖かい季節なら素手で乗っているライダーは多い。グローブは防寒用と見做されているのかも知れない。

以前はグローブって高価なものだった。今では二輪のアクセサリーショップへ行くと、手ごろな値段で買える。原付きバイクの利用者は、残念ながらそうしたショップに足を運ぶ機会が少ないと思う。もっとカラフルでファッショナブルなグローブがあれば、自動二輪のライダーだけでなく、圧倒的な数の原付きライダーにも潜在的な需要を掘り起こせるのではないかと思ったりする。

私が選んだのは、黒一色のタイプ。他に茶色のものがあったくらいだ。直に身に付けるものだから、「安全のため」というよりも、「かっこいいから」とはめたくなるような、デザインとカラーが考慮されたグローブが欲しい。結局、安全もデザインと無縁ではないはずだ。



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