コーヒーブレークにコーヒーの話題を。
私は学生時代からのコーヒー党で、夜コーヒーを飲むと眠れない、どころか、コーヒーを飲まないと眠れない、くらいの中毒患者です。自宅ではコーヒーミルで豆を挽き、ネルのドリップで淹れていました。これがいちばん美味しい淹れ方だと思いますが、さすがにネルの袋は手入れが面倒くさくなって、いまでは紙のフィルターです。
そのころ、コーヒーに関する本を買って、にわか知識を仕入れたり、それまで読んだことのない獅子文六の「コーヒーと恋愛(可否道)」をそのタイトルだけで読む気になったりしました。新宿に「らんぶる」という名曲喫茶があって、なかなか聴くチャンスのないバッハのレコードをリクエストしてはかけてもらったことも、コーヒーと記憶の重なる、今となっては照れ臭い思い出です。
コーヒーには、そんな懐かしい遠い記憶とブレンドされた響きがあります。
コーヒーといい、カフェといい、どこかヨーロッパの生活と文化の香りの語感がありますが、ヨーロッパにコーヒーが伝わったのは古いものの、広まったのはやっと17,18世紀くらいと言われています。バッハに『コーヒー・カンタータ』という、いわゆる世俗カンタータがあって、コーヒー好きの娘と、なんとかコーヒーをやめさせようとする父親とのユーモラスなやりとりが芸術的な名曲になっています。これは、バッハの時代にいかにコーヒーがブームになっていたかを物語るものです。多分バッハもコーヒーが好きだったことでしょう。
そのバッハに続くベートーベンも大のコーヒー好き。いつもコーヒー豆を数えて挽いていたという、ほほ笑ましいエピソードが買った本に書かれていました。その古い本がすぐには見つからないので、いったいその豆の数がいくつだったか確かめられないのですが、Google を使ってコーヒー関連のサイトをしらべたら、一様に60個とありました。
でも、いったい60粒とはどれだけの量か、深く詮索されていませんでした。豆の大きさに差があるかも知れませんが、60個とは私のコーヒーミルの計量カップでこれだけの分量です。
カップに7,8分目くらいでしょうか。私はこのカップちょうど一杯分を使いますので、ベートーベンは私よりも薄いコーヒーが好みだったのかも。でも彼がコーヒーをどんなふうに淹れたのか、記述がありません。
ヨーロッパで急にコーヒーが広まったのは、ちょうどそのころ砂糖が庶民にも手の届くものになり、砂糖の普及がコーヒーの人気を高めた言われています。苦かったコーヒーは程よい砂糖の甘味によって、新しい美味しさが発見されたと言えます。コーヒーに砂糖を入れずに飲む人もいますが、私は少量の砂糖を入れます。ミルクはコーヒーの本来の味を消すようなもので、コーヒーがまずいときに入れるようにしています。アメリカではたいてい入れることになります。
コーヒーが好きだという人でも、自宅では豆を挽かないことが多いようです。あるいは、電動のコーヒーメーカーを使うようです。たしかに、家族数人分の豆を手で挽くのは面倒くさいでしょう。私は自分で豆を挽くのが好きなのですが、どうもこれは私のつかっているコーヒーミルも関係しているようです。手挽きのミルはたいていテーブルの上に置いてゴリゴリやるタイプが普通ですが、私が使っているミルは、左手で持って、右手で挽くタイプです。
テーブルの上で挽くタイプのように無理な姿勢を強要しないのと、テーブルに共鳴してやかましい音をたてるでもないので、これはすぐれ物です。仲間とハイキング、登山に行くときもリュックに入れるのが苦になりません。山の上で飲む挽きたてのコーヒーは格別です。このデザインと使い勝手の良さで、私には豆を挽くのが面倒どころか、むしろ楽しいくらいです。
もう30年も使い続けているコーヒーミルで、丈夫だし、デザイン的にも優れたものなのに、残念ながら今では店頭で見かけません。メーカーはプレートにKONOS TOKYOとあるのですが、たぶんこのメーカー自体がなくなってしまったのでしょう。ということは、このデザインは舶来もののコピーではなくて、日本のオリジナルでしょうか。ひょうたんの形もしているし。
私がコーヒーに凝り始めた70年代には、日本に入ってくるコーヒー豆は二級品で、一級品はヨーロッパに行くと言われていました。それが事実だったかどうか知りませんが、いまでは間違いなく日本のコーヒーの味がいちばんだと思います。日本の水のせいでしょうか。日本茶の淹れ方の伝統があることも関係しているでしょうか。上記の獅子文六『可否道』は、茶道と同じように、「珈琲道」もあっていいじゃないかと、コーヒーに入れ込む人たちのコメディータッチのストーリー。「可否」は「珈琲」のことです。
それはともかく、特定の果実の種を、天日で干して、煎って、砕いて、熱湯で抽出して飲む、こんな飲み物がよくもまあ見つかったものだ、と不思議な気がします。そうすると、いまでも隠れたままで、発見されるのを待っている未来の飲料も、まだまだたくさんあるのかも。
追記:KONOS のミルのユーザーから(07.11.23)
今月初めに、このエッセーをご覧になったKONOSのミルユーザーの方から、以下のご質問をいただきました。
すぐにご返事差し上げたのですが、受け取られた確認がなく、再送、再再送してもいまだ音沙汰ないので、ひょっとしたらメールボックスの設定ミスなどで、スパム扱いされて受信されていないのかも知れません。以下に送ったメールを再録しますので、いつか目にされることを願っております。こんにちは、[O]と申します。 コーヒーブレーク「コーヒーの話」(03.5.24)を読んで、メールしました。 私もKONOSのミルを持っているのですが(同じ色です!!) 豆の挽き具合の調整の仕方がわからずにいます。 もし、ご存知でしたら、教えてもらえませんか?? 古いものなので家族もわからず… 今はかなり細かい豆しか挽けません。 コラムを読んで、そんな古いものだったと知り…驚きました。 挽き具合、使い勝手はとても良く、 ずっと使われていなかったにもかかわらず、今でも現役選手です。 KONOSのミルの情報はネット上でも少なく、 こちらにたどり着きました。 バイクのことが専門のHPへの問い合わせ、恐縮ですがお願いします。。。エッセーをお読みいただきありがとうございます。同じKONOSのミル ユーザーからのメールを嬉しく思います。 底蓋を開けて内部をご覧になるとお分かりのように、豆を挽く荒さは 回転する臼部分との隙間の大小できまります。 この隙間を調節するのはハンドルで回る軸についている8角形の ネジです。このネジは「コの字」を逆さにしたストッパーで固定されて います。このストッパーを上に持ち上げる(バネがついているでしょ) と、8角のネジが回りますので、適当な隙間になったら、ストッパー を下げて固定します。 お分かりにならなかったら、またメールくださいな。 コーヒー豆は少し荒めに挽いたほうが香しくなりますね。 お宝探偵団には登場しそうにありませんが、KONOSミル、大切に 長くお使いください。バイクとは直接関係ありませんが、道具や機械 を大切にすることは、人を大切にすることにも繋がるように思います。