VINはワインの香り(04.10.24)


それはハリウッドからの一通のメールがきっかけでした。

『ヘッドライト・テールライト』の'04/10/17付けで紹介しましたが、BMW R69Sがハリウッドの自宅から盗難された、との情報がアメリカから寄せられました。その文中に、VIN#661817という数字がありました。VIN? 初めて耳にします。多分これは車体番号のことだろうと思って、一応検索エンジンでヒットしたアメリカのサイトを参照しました。

たしかにこれは日本でいう車体(車台)番号に相当するものでした。ところがよく資料を読むと、全く同じものではないことも分かってきました。それは、その目的と実用性ならびに歴史的背景です。

VINはVehicle Identification Number の頭文字で、日本語にすると、「車両特定番号」または「車両固有番号」というところでしょうか。文字通り、ある車両(自動車とバイク)に固有に割り振られた番号で、メーカーが付けます。人でいえばIDです。

ライダーなら、自分の車のプレートナンバーは知っていることでしょう。それは目立つところに付けられている、ただそれだけの理由です。車を特定するのは、このナンバープレートだと誤解している人も多いことでしょう。ナンバーは車両登録の結果与えられるもので、車両そのもののIDではありません。オーナーや住所が変われば、ナンバーも再交付になります。つまり、その車のオーナー情報がメインです。当然、盗まれてプレートを外されてしまうことがありますから、これがIDだったらたとえ車両が発見されても、オーナー特定ができなくなります。

それに対して、車のIDは、オーナーが変わろうが、住所が移ろうが、変わることのないその車の固有の識別番号です。現在その役割をしているのが、車検証にある「車台番号」ですが、ここでいう車台とは「車両」のことではなくて、フレームのことです。このエッセーをお読みの方は、お持ちのバイクの車体番号がどこに刻印されているか、その番号が車検証のものと合致しているか、確かめたことがおありでしょうか。

今の車体番号の問題点、それは、目立たないところに、目立たないように刻印されていること、車検証を見ないとオーナーでも分からないこと、そもそも車体番号なんて知らない、見たこともないオーナーもいる、という事実です。

一方アメリカは、そもそも車がないと生活出来ないようなお国柄、中古車の売買も盛んです。当然、盗難も多発、それは転売目的です。中古車を買おうとしている人は、盗難車を掴まされたら、お金を払ってしまったあとで車を没収されかねません。VINは、盗難された場合の流通を防ために、車のIDとして導入されたものです。それは四輪もバイクも17桁の英数字からなっている、とあります。

17桁だって?

そういや、当サイトの盗難車リストに記載の、ハーレーなど外車や日本車の輸出モデルの車体番号は、日本で売られているものよりも長いものです。なかには必要のない「捨て番」のような数字もあります。今まで桁数を数えたことはありませんでしたが、あらためて数えてみたら、ほんとだ、みな17桁です。なんのことはない、アメリカの法令に各メーカーが対応していたのでした。

このサイトを開設するに当たって、ナンバーを外された盗難バイクはどうやって特定できるものか考えて、車体番号とエンジン番号を並記するようにしました。というのは、この二つには違う番号が振られていることを私のCBXで知っていたからです。ふたつが異なっている、ということは、日本ではフレームもエンジンもパーツであって、そのパーツにシリアル番号が刻印されている、当然、フレームとエンジンのシリアル番号は一致しない、車両を特定する番号に、エンジン番号ではなくて、フレーム番号を使っている、ということを意味します。

バイクの場合、かつてハーレーはVINをフレームではなくて、エンジンにマークしていたこともあるそうですが、1981年からは17桁のVINがフレームに、その省略形がエンジンに付けられています。たとえば、フレームには1HD1BDK11BY123456、エンジンにはBDKB12345といった具合。

盗難されたバイクは、犯人が乗り回すこともあるでしょうが、高価な大型バイクは転売目的です。転売して流通するこをを可能にする環境、または法の不備、があるから、窃盗が横行します。逆ではありありません。バイク盗難を根絶するためには、転売できなくする環境をつくればいいのです。そのひとつがVINによるトレーサビリティと言えます。盗難被害も、転売も、再登録も、すべてVINを中心に据えればいい。

当サイトのトップページで、中古売買には車体番号を明記すること、エンジン番号を記録しておくこと、主なパーツに車体番号を刻印しまくることを提案しています。バイクはパーツで売買されてしまうこともあるからです。アメリカのサイトを物色していたら、四輪用ですが、窓ガラスにVINをエッチングするキットがありました。モーターサイクルも含むパーツ用に、剥がれないラベルのプリンターも出ています。

盗難バイクは密輸されるとき、パーツに分解されてコンテナに積まれます。それは、パーツになったらその「車体番号」が分からなくなり、検品しようがない、と窃盗団が狙いをつけたものと想像します。昨年末に、輸出直前で取り押さえた盗難バイクは、こんなふうに分解されていたそうです。台湾から取り返した3台のバイクも車体番号が、同様に偽装刻印されていたことをお伝えしました。はたして日本で偽装したのか、台湾でやったのか、分かりませんが、日本でやったものだとしたら、輸出時に検査が入ったときの撹乱目的に偽装したものでしょうか。

台湾から戻したうちの1台、YZF-R1のフレーム番号は右のように打刻されていました。この「8」のように偽装された下4桁目を「9」と鑑識してもとの番号を割り出してくれた台北の警察に敬服するばかりです。

余談ですが、vinとはフランス語で「ヴァン」、ワインのこと。「フレーム番号」ではなくて、「個体識別番号」としてのVINが日本でも制度化すれば、これはライダーにとって歓迎すべきことになるでしょう。Vehicle Identification Number と覚えるよりも、「ワイン」のほうが記憶しやすく、香ばしい響きがあります。



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