コーヒーブレーク「フェアリング」 (05.6.3)


ライダーの風よけと空気の整流のために、バイクの前面に装着するスクリーンと被いをフェアリング(fairing)といいます。日本ではカウルとも呼んで、フロントフォークにマウントされてハンドルと一緒に動くタイプをビキニカウル、フレームに固定されるタイプで、エンジンまでカバーするタイプをフルカウル、エンジンまでは被わないタイプをハーフカウル、などと区別するときには語呂がいいようです。でも、私が二輪免許をとった80年代半ばは、まだハーフフェアリング、フルフェアリングという呼称が一般的でした。

名前はともかく、今ではフェアリングがついたバイクを標準と見て、フェアリングなしのバイクをネイキッドと呼んで区別しています。以前はノンフェアリングとか、カウルレスとか呼んでいた時期もありますが、これは姉妹モデルとしてフェアリングつきとフェアリングなしの、両タイプが混在していたせいもあるでしょう。

ビキニカウルはすでに70年代からバイザーという名でパーツとしても存在していたようですが、フェアリングは認可がなかなか下りずに、初めて日本でフェアリングつきのバイクが発売されたのが1982年。それがCBX400F INTEGRAです。

今から見ると、CBX400Fに「とってつけた」感のあるフェアリングで、デザイン的にはバランスがとれていないように思うのは、私だけではないでしょう。が、スクリーンの上部を反らしてあるのは、風の整流とスクリーン越しにも前方が歪みが少なく見えるように実験を重ねた結果と思います。

これから一挙にフェアリング装着モデルが登場して、とくにフルフェアリングはレーサーレプリカが目立ちました。私が最初に自分のバイクをどれにしようかと悩んだのは、こうしたフェアリング全盛時代でした。

そうして相棒として選んだのが、二代目VT250F。通称VT250FE、ハーフフェアリングのモデルでした。なにしろ初めてのバイクなので、高速を走っても、フェアリングの効き目がいいのかそれほどでもないのか、比較のしようがありませんでした。ただ、ちょっと250は高速では馬力不足だなあ、と感じたものです。

やがて片道20キロの通勤にバイクを使うようになって、400へステップアップしたくなったときに、「ネイキッド」のCBX400Fに乗り換えました。時代に逆行するような選択でしたが、コンパクトな車体で乗りやすいCBXでの毎日の通勤は楽しいものでした。ツーリングで遠出もしたものの、高速はただ距離と時間をかせぐために利用するようなもので、走っていて退屈でした。速度を上げると90キロくらいから空気の抵抗が加速度的に増えていくのが分かります。

そのCBXを盗られてしまってから、いや、殺されてしまってから、その墓標のようなエッセーの石を積み上げてきました。そうして、やっと盗難件数の減少を統計数字で確認できたこの春、ふたたびライダーに回帰することができました。新しい相棒は、中古のK75S。製造から15年も経っているけど、ディーラーで整備してもらって、まだまだ元気。この3気筒モデルは日本では不人気車種で、そのおかげで中古価格が安いのがなによりも嬉しい。

違うのは、今度は街乗りではなくて、ツーリング専用ということ。これまで車でもCBXでも楽しい道中ではなかった高速道路ですが、さすがはナナハン、パワーがある上にフェアリングがあると高速走行が気持ちいい。私はすっかり高速で空気を切り裂くのが好きになりました。スクリーン上部の反りも、CBX400F INTEGRAのように風防効果を計算しているのでしょう。しかもこのK75Sは直進性がやたら強くて、長距離走行も苦になりません。

ところで、このK75Sのハーフフェアリングは、どことなく、VT250FEのそれと似ています。フェアリングはバイクの顔のようなもの。懐かしい思いがします。なんのことはない、20年経ってみると、最初の相棒がひとまわりおおきくなって戻ってきたような、時の螺旋のひとめぐりがそこにありました。



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