バイクの呼吸 (07.1.17)


その昔はスキー場に雪が少ないことを、そのまま「雪不足」と呼んでいました。昨今は「暖冬」と呼ぶのがふつうです。その言外に意味するのは「地球温暖化」の懸念です。この地球の温暖化の原因が大気中の温室効果ガス、とくにCO2濃度の上昇です。

CO2の増加をもたらしているのは、産業革命以降の石油石炭など、いわゆる化石燃料の大量消費ですが、なにせエネルギー産業をめぐる利害と利権のからんだ問題なので、真摯な科学的調査がある一方で、そもそも温暖化がCO2増加によるものかどうかに疑義を唱えるスポークスマンを支えるスポンサーがいるのも当然です。

石油利権の代表がそのまま大統領である国や、遅ればせながら工業化で先進国に追いつこうとしている「発展途上国」とちがって、日本では、エネルギーの利権の横綱がいないせいもあって、温暖化がCO2の増加によるものだ、という認識はほぼ常識です。

その一方で、CO2排出の大きな比率を占める自動車の巨大メーカーをかかえる日本ですので、燃費の向上、ハイブリッドカーなどの導入と、環境問題に対応することがこれらの企業にとっても死活問題になっています。加えて、原油価格の高騰によりガソリン価格が上がると、がぜん燃費のよい車が好まれるようになります。燃費の議論はもともとは経済的負担からのものでしたが、いまや「環境にやさしい」車かどうかの議論の対象です。

翻って、モーターサイクリストにとっての燃費はどうかというと、一般にバイクは車より燃費がいいのと、年間走行距離も車ほどではないので、ガソリン価格の変動にもあまり神経質にならないでいることでしょう。私のCBX400Fは毎日通勤に使っていたときで燃費は17キロ。いまのK75Sは高速がメインで20キロ、ハイオクですが、ガソリン価格が上がってもとくだん苦になりません。けれど、バイクを走らせることは、CO2を排出していることだ、という引け目はあります。いくら、月に400キロしか走らないとは言え。

いったい、私はCO2をどれだけ排出して、地球の温暖化の共犯者になっているのだろう?

私が消費している主なエネルギーは都市ガス、電気、ガソリン。これらをどれだけ燃やすとどれだけCO2が発生するかをその排出係数といいます。電気の場合は、発電にともなって発生したCO2で換算します。

たとえば、我が家にガスを供給している東京ガスのホームページによると、都市ガス(13A)のCO2排出係数は 2.21 kg/m3。ある月を例にとると使用料は 13m3 でしたので、そのとき排出したCO2は 13 x 2.21 = 28.75 kg。このとき請求は 2,435円でしたので、CO2 1kg当たり 84.75円になります。

ガソリンと電気はこちらから排出係数を借りると、それぞれ 2.3587 kg/L、0.425 kg/kWh。これをガスと同じように計算して、表にすると、

 CO2排出係数1ヶ月消費量1ヶ月CO2排出量1ヶ月支払い金額CO2 1kg当たり金額
都市ガス2.21 kg/m313 m328.75 kg2,435 円84.75 円
ガソリン(バイク分)2.3587 kg/L20 L47.20 kg2,800 円57.20 円
電気0.425 kg/kWh439 kWh186.58 kg9,793 円52.49 円

私はこれだけでも月に 260kg のCO2を排出したらしい。これが多いのか少ないのか。そうだ、私が呼吸によって吐き出しているCO2も加算しなくちゃ。

人の呼吸によるCO2排出係数は、消費するカロリーから推測したり、吐く息のCO2濃度などを計ったりして計算しているようですが、だいたい 0.8 - 1.0kg/日くらいで議論されています。まあここでは、1.0 kg/日 と考えると、ひと月に私が吐きだしたCO2は 30 kg。すると、バイクが排出した分と大差なし? 

人の呼吸によるCO2排出も温暖化の要因なのか?

実際は、生物の排出するCO2は、温暖化に影響していません。たしかに、呼吸することでCO2を排出するのは同じですが、そのCO2の元になっている炭素Cは食物から取り込んだものです。すると、作物も、また飼料を食べて育った家畜も、つねに再生産されているならば、人が吐きだしたCO2の炭素は循環していることになります。

一方、化石燃料とは、太古の昔、地球上の海や大気に溢れていたCO2や炭素化合物が、生物によって地中に閉じこめられたもの。CO2が大気から取り除かれて、それまで灼熱の地球が冷やされて、温暖な環境が生まれました。それを再び今、大気に戻しているので、これは循環しないで大気に(そして海に)留まります。問題は、化石燃料を燃やしていることに起因しています。バイクも、CO2の排出量だけをみるなら、ライダーの呼吸と同じようなレベルでかわいいものですが、残念ながら、人と違って化石燃料を「食べて」いることが大きな違いです。

その一方で、上記のように排出係数と消費量でCO2排出を計算して気づくのは、発電もCO2を排出していること。電気がクリーンだと思って電気に依存しすぎることは考えものです。ソーラー発電なら別ですが。

いったいバイクが呼吸したCO2はどうやってふたたび炭素として固定できるのだろう? それは宇宙に人を送りだした人類の高度な科学技術などではとうていかなわぬ、下等で精巧な生物にのみにできる技なのかしら。排出したCO2の分だけ炭素を取り込んだ木をそのまま石炭層に送り返すか。または海にサンゴを再生させ、石灰岩層が増えるのを待つしかないのか。

日本の2004年度の温室効果ガス排出はCO2換算で13億2900万トン。私のバイクの排出分560kgは割合からしたら全くものの数ではありません。でも化石燃料を使った内燃機関はいつか消えていくことは確実です。私がまだバイクに乗れるうちに、燃料電池バイクが実用化になるかどうか分からないけれど、そのときは、クリーンな呼吸をするバイクの新時代を祝いたいと思います。



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