『不都合な真実』のもうひとつの真実 (07.1.28)


昨日の土曜日は今公開中の『不都合な真実』 (An Inconvenient Truth) を見てきました。日本ではこの20日からの公開ですが、劇場用の映画というよりは、ドキュメンタリー構成なので、すでにアメリカでは、リージョン1ですが、DVDが発売されています。興行収益ではなくて、より多くの人に見てもらうことが製作目的であることが、映画を見ていても伝わってきます。

2000年の大統領選に破れたアルバート・ゴアは、そのまま引退するのではなく、それまで取り組んできた課題のひとつ、環境問題について、地球温暖化がもたらす地球規模の危機を訴えるべく、世界中でプロジェクターを使った講演を行ってきました。その回数は1000回にも及んでいるそうですが、そんな

ゴアの講演に感動して、映画化を進めたのは「グッド・ウィル・ハンティング」や「キル・ビル」のヒットメーカー、ローレンス・ベンダーと「シリアナ」、「グッドナイト&グッドラック」のジェフ・スコル。ゴア自身は講演会場に現れたスコルの深い知識と情熱に心を動かされ、映画への参加を決意した (公式サイト  http://www.futsugou.jp/aboutthefilm/index.html の映画紹介より)
とあるように、映画は彼の講演を再現した内容を縦糸とするいっぽう、ゴアが環境問題に取り組むことになった背景、とくに個人的なかかわりを随所に横糸として織り込んだ構成になっています。

アル・ゴアというと、クリントン政権時の副大統領として記憶されているのが普通ですが、じつは1988年の大統領選挙に立候補しようとしたものの、民主党内での指名を勝ち取ることができませんでした。それは、ケネディよりも若い40歳という年齢も関係していたでしょうが、それよりも、

マスメディアはこぞって、ゴアのスピーチが感情がこもっていないように聞こえることや、大衆性に欠けていることを批判した。一般の選挙民には、科学的事象や正確なデータを織り込んだゴアの演説は、単調で退屈であり、ユーモアに欠けるような印象を与えた。さらには、環境問題を声高に訴えるゴアは、時として融通のきかない頑固者のように映ることがあった (浜野保樹「2001年大統領の旅」1994年初出 『デジタル革命の衝撃』1996年 NTT出版 所収)
という指摘もされています。1992年の大統領選では「大衆的」な人気のあるクリントンが大統領候補の指名を受け、ゴアは副大統領候補として一緒に選挙を戦い、情報スーパーハイウエイ構想を訴え、副大統領になった翌1993年、この情報スーパーハイウエイを実現するための報告書「全米情報基盤(NII)行動アジェンダ」が発表されます。それまで、マルチメディアをキーワードに情報通信の未来像を描いていた日本は、この「情報スーパーハイウエイ」に震撼することになります。そして、それまで大学や研究所の間に限定されて開発、使用されてきたインターネットが民間にも解放され、しかもWWWの登場でテキスト、画像、音声、動画が統合的に処理できる条件ができると、情報スーパーハイウエイはやがて高速インターネットへとその姿を明確にしてきました。

映画ではゴアがノートパソコンのPowerBookG4 を駆使しているシーンが何度も出てきます。それは現在ゴアがアップル社の役員であるからだけではなくて、そもそもインターネット普及の立役者のひとりでもあることを示唆しています。私がはじめてインターネットプロバイダーと契約したのが1995年半ば。それでも、まだ一般にはインターネットということばさえ無縁でした。上記『デジタル革命の衝撃』ではこんな象徴的な事例を挙げています。

ある全国紙が初めてインターネットを紹介する長文の記事を用意した時、担当のデスクは、その文章からインターネットという文字をすべて削ってしまった。一般紙の読者はインターネットという言葉を知らないというのが理由だった。それが1995年の初めのこと (「アトムからビットへ」)
であり、このコラムの初出は1996年1月。今から振り返っても隔世の感があります。インターネットがこの10年で、社会と人々の意識をすっかり変えてしまったように、環境問題も、いよいよ気候変動がだれの目にも明らかになってきているここ数年、それまで無関心だった人々の意識も急速に変化しています。かつて「ユーモアがなくて退屈」と評されたらしいゴアの話し方ですが、映画ではそれが想像できません。

映画の終わりに、「あなたにできること」が示され、そのうちのひとつに「この映画のことをともだちに話してください」がありました。そこで、インターネットの友人の皆さんに、インターネットと関連して、お話させていただきました。

アメリカの公式サイト http://www.climatecrisis.net/ もどうぞ。



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