動力の歴史を塗り替えることになったガソリンエンジンが最初に搭載されたのは、じつは二輪車だったということを知っている人は、まだライダーの中でも少ないかも知れません。1885年にダイムラーが制作した最初のモーターサイクルは、ガソリンエンジンが蒸気機関に代わって「自転車」に積めるほどに小型軽量な動力機関であることを知らしめました。
小型で軽量、高出力の動力を求めていたのは、自動車のほかに、飛行機がありました。ライト兄弟の飛行機はガソリンエンジンがあってこそ実現できたものでした。その意味で、オートバイと飛行機エンジンの開発は時代の最先端を行くものであったことがわかります。本田宗一郎が少年時代に飛行機に憧れたのも、BMWのエンブレムが飛行機のプロペラを模したものであるのも、決して意外な取りあわせではありません。
現在ではモーターサイクルは技術的な開発競争もピークを過ぎて、円熟期に入った感があります。そういうときは、普及期を過ぎたパソコンも同様ですが、若者がかつてほど購買意欲を示さなくなります。オートバイメーカーも製品のラインナップを縮小せざるを得なくなってきています。
メーカーの販売台数が減少してくると、「買いたいモデルがないからだ」とユーザー側からの代弁が聞こえてきますが、これは「売れるモデル」がすなわち「買いたいモデル」という、同語反復のようにも聞こえます。
これからは、新規モデルを追いかけるよりも、もっとモーターサイクルそのものの楽しみ方を見直すことがあってもよさそうです。二輪市場の縮小にもかかわらず、書店にはバイク関連雑誌が多く並びます。それも、かなり趣味性を強く打ちだした編集ポリシーが目立ちます。ファッションに重きを置くもの、中高年のライダーを読者に想定しているものなど、かつてとは様変わりしています。
そんな多様な雑誌でも共通しているのが、ツーリングの記事と写真でしょうか。日本にもこんなところがあったんだ、と思わせるような景観や、いちど行ってみたくなるような温泉や観光地。それをバイク雑誌で知ることになったケースも多いはずです。
やはり、バイクの楽しみ方の原点はツーリングにあると思います。
その目的地が遠いところであれば、高速道路は有用なインフラです。移動時間を短縮できるのみならず、なんといってもバイクのもっている加速性能や高速安定性を楽しむのも、有料の自動車専用道路が向いています。ところが、二輪ETCについてのアンケート調査であらためて判明したことは、高速道路をなるべく使わないでいるライダーが多いという現実ででした。したがって、二輪ETCの装着に積極的にはなれないでいることになります。
このところガソリン価格が高騰して、遠出を控えるマイカーも増えていると耳にします。昨日談合坂のサービスエリアで給油したら、ハイオクがリッター156円でした。たしかに、130円くらいの頃から比べると価格は上昇しました。けれど、移動にかかる費用全体からするとどうなのか? ここで高速道路料金があらためて問題になります。
高速道路料金は料金表を見れば走行区間の料金は分かります。では、そもそもその料金体系はどうなっているのか?
内閣府の国民生活政策ホームページに「公共料金の窓」があり、その中に高速道路料金の解説があります。
『高速道路料金の種類と仕組み』http://www5.cao.go.jp/seikatsu/koukyou/highway/hi01.htmlそこから引用すると、料金は原則として対距離料金制で、全国画一の料金水準となっており、走行距離によって変わる部分と利用1回ごとにかかる固定部分(ターミナルチャージ)から決まります。走行距離によって変わる部分は5つの車種区分があり、比率が異なります。また、走行距離が100キロから200キロまでの部分について25%、200キロを超える部分については30%の割引が行われており、長く利用するほど1キロ当たりの料金は下がってきます(長距離逓減制といいます)。なお、建設費が高い大都市近郊など一部の区間では、1キロ当たりの料金が全国画一の料金水準より高い特別料金が設定されています。計算式が以下のように示されています。
高速自動車国道の各車種区分の料金比率は普通車の1.0に対して特大車2.75、大型車1.65、中型車1.2、軽自動車等が0.8となっている。普通車の場合、(24.6円/km x 走行距離(km) + 150円) x 1.05 (消費税率)具体例として、以下の距離と料金が提示されています。
ただし、算定後に24捨25入により端数処理を行い、すべての区間で50円単位の料金とする。八王子〜大月(中央高速 44.6km)普通車 1,300円八王子ー大月間については、(24.6 x 44.6 + 150 ) x 1.05 = 1,309.52 -> 1,300円 と計算式どおりです。
東京〜名古屋(東名高速 325.5km)普通車 7,100円では東京名古屋間の325.5kmはどう計算されるのか?
上記引用文でいう「長距離逓減制」は分かりにくい記述ですが、要するに、最初の100キロは24.6円/km、つぎの200キロまではその25%割引で24.6 x 0.75/km、200キロを越える分、つまり125.5km分には30%割引で24.6 x 0.7/kmが適用になるという意味です。なお、走行距離が200キロを超えると距離全体に3割引が適用されるものと誤解している向きもありますので、ご注意ください。
実際に計算すると、東京ー名古屋間の普通車料金は、
(24.6 x 100 + 24.6 x 0.75 x 100 + 24.6 x 0.7 x 125.5 + 150 ) x 1.05 = 6,946.92 -> 6,950円となって、ぴったりとは7,100円にはなりません。150円の割増分は、一部区間の特別料金とやらが効いているものでしょう。二輪の場合、キロ当たり料金が普通車の0.8。つまり、上の計算式で24.6円/kmの替わりに 24.6 x 0.8 で計算します。すると、高速道路を100キロ、200キロ、300キロ走行したとき、それぞれ料金は、2,200円、3,750円、5,200円となります。
このとき消費されるガソリンのコストを燃費20キロで合算したのが以下のグラフです。ガソリン価格を、100円/Lと150円/Lの2つのケースを表示します。
一見して分かることは、高速料金がいかに高いかということです。それに比べたら、ガソリンが150円に上がっても、高速での移動のトータルコストの中で占める割合はずいぶんと小さなものであることに気づきます。本来、移動を効率よくするためのインフラたる高速道路が、じつはこれだけ通行税をとって、自由な移動を阻害していることになります。
ETCをつけているライダーは、私もそうですが、深夜割引の30%はもとより、100キロ圏内の早朝夜間割引や通勤割引の50%を利用して、なんとかコストをセーブしようとしていますが、そんなふうに無理して時間帯をずらすことにも限界があります。高速料金が半分、あるいは3分の1になれば、また利用の仕方も大きく変わることでしょう。
クルマ離れ、バイク離れが叫ばれますが、実際は「高速離れ」がそれを加速させているのかも知れません。
追記(07.9.26):特別料金区間の割増料金
東京ー名古屋の料金計算に差額を生んでいる特別区間とはどこなのか調べたら、ETC割引の条件によく出てくる「大都市近郊区間」と分かりました。東名でいうと、東京ー厚木の35.0km区間がこれに当たり、2割増しの29.52円/kmで課金されています。つまり、この区間だけ走ると、通常の24.6円/kmなら1100円で済むものを、1250円を払っているのです。この差額が150円なので、上で計算した東京ー名古屋間の料金差額に相当します。
けれど、トータルの料金計算の方法を採ると、同じ結果にはなりません。厚木までの35kmを29.52円/km、そこから24.6円/kmが適用になる100kmまでは65km、そこから200kmまでは24.6円/kmが25%引き、200kmを超えた125.5kmが30%引きとなりますので、前回計算した式を一部訂正すると、東京ー名古屋間は、
(29.52 x 35.0 + 24.6 x 65.0 + 24.6 x 0.75 x 100 + 24.6 x 0.7 x 125.5 + 150 ) x 1.05 = 7127.73 -> 7150円と、こんどは7,100円ではなくて、7,150円になってしまいます。計算法としてはこちらの方が正しいはずですが、いったいどのように特別料金区間を計算式に取り込んでいるものやら、分かりません。計算を間違えているのか、区間距離が料金表を作成したころから訂正されたものか、いずれにしても、特別料金区間なるものの正当性そのものが疑惑の対象ではあります。なお、関越トンネルの通行料金が水上ー湯沢間の料金に含まれているので、この区間の距離単価が6割増しの39.36円/kmであることも周知とは言えません。ETC通勤割引を利用する場合、もし100キロを超えてしまうために一旦高速をでないとならないとしたら、関越トンネルを含む区間を割引対象区間にするのが得策です。