限定解除のススメ - その1(98.8.30)


大型二輪の免許が教習所でも取得が可能となった今では、かつてのように限定解除に挑むライダーは少なくなっているのだろうか。

難しい試験の代名詞のように思われていた、いや、今でも思われているかも知れない、限定解除試験だが、確かに易しいとは言えないが、難しいからと端から諦めるようなものでもない。べつに、合格したからといって、「たいしたことないよ」と吹聴しているわけでもない。実際、私は限定解除挑戦を公言して試験場に通っていたし、落ちたときもそう報告していた。それは、必ず受かるという確信があったのと、なによりも、大型バイクへの挑戦が楽しかった。一年計画だったが、訓練を初めてから合格まで実際も一年だった。あれから10年になる。

今でも、府中の試験コースと、それを合格したときどうクリヤしたか、はっきり覚えている。当たったのは一度も練習したことのないHONDA CB750F。身長160、短足ライダーには足ツンツンの重いバイクだ。憧れのモデルではあるが、試験車としては敬遠したいところだ。

けれど、その日のCB750Fはアクセルの反応が良かった。スラロームを流れるように走りきったら、急にバイクとの一体感がでてきて、クランクでもスピードが落ちなかった。試験とはいえ、バイクに信頼をおくと緊張が溶けていった。ところが、まもなくハプニングが起きた。坂を下って、一時停止したところでいきなりエンスト、そのあおりで車体が右に傾いて、転倒しそうになった。右足で必死に支えたが、もうダメか、と一瞬諦めかけた。試験官もそう思っただろう。だが倒れてなるものか、と渾身の力を振り絞ったら、バイクはスッと立ってくれた。なんだか、バイクが自分から起き上がってくれたような気がした。いずれにしろ、エンストして、転倒しそうにもなったんだから、もうダメだと分かっていた。

試験官が中止を知らせる合図はまだ出ない。情けから、もう少しコースを走らせてやろう、というつもりか。それなら、こっちも練習のつもりで、とばかりに、戻れの合図がでるまで、走り続けることにした。不合格は分かっていたから、かえってすっかりリラックスして、風を切ってコースを回った。急制動まで来たのに、変だな、まだ戻されない。とうとうコースを回りきってエンジンを切った。思えば、コースを完走したのは、これが初めてだった。そっと、CB750Fの大きなタンクを撫でた。

受験用紙を戻してもらうのに、試験官に近づくと、いきなり、「名前と住所は?」と聞かれる。聞いてどうするんだよ、といささかムッとしながらも、押さえて、丁寧に答える。「生年月日は?」と、余計なことまで聞いてくる。免許証を見ているんだから、分かるだろうに、いやがらせか、と思った。すると、「これからも安全運転には十分気をつけて」と、黄色のパンフレットを手渡してくれた。それが、合格のしるしだった。背後から、試験の順番を待つ他の受験生からの拍手が聞こえた。

(続く)





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