限定解除のススメ - その3(完)(98.9.12 追記 2011.9.26)


私が教習所で中型をとったころは、実技が3段階で、各3時間の規定だった。最短で、たった9時間の練習だ。4輪なら仮免の路上教習があるが、バイクは教習所のコースで高々40KMのトロトロ運転から、いきなりビュンビュンの車の流れに飛び込むわけだ。しかも、多くの場合買ったばかりの新車で。考えると、怖い話だ。

原付からのステップアップなら、いくらか安心だろう。だが、私はそもそもオートバイどころか、原付さえ触ったことがないまま、中型のコースに入ったので、初めて取り回す400ccのバイクの重さにびっくりしてしまった。普通免許をもっていたのがいくらか幸いした。なんとか各段階1時間ずつのオーバーで済んだ。

「オートバイは危ない」と、よく四輪のドライバーは言う。私もドライバーだが、「オートバイそのものは危なくない。オートバイにとって危ないのが四輪だ」と言い返す。鉄の箱に守られているドライバーと、生身をさらしているライダーとでは、走り方がまるで違うのだ。ライダーは、前を走る車があれば、その挙動からそれがどういう動きをするのか、予測のアンテナを張らないとならない。それがタクシーだったら、客を拾うために急停止するものと決めてかかるべきだし、トロトロ走る近県ナンバーだったら、道を捜しているから、後続車にお構いなしに進路変更をするかも知れない。自己中心でいられる四輪と違って、ライダーは周囲の車の動きを常に予測しないとならない。たとえ相手の過失であっても、事故になったらゲガをするのは当然二輪のライダーなのだから。

限定解除の試験はどのような採点基準なのか知らないが、乗りこなす技術はもちろんとして、それよりも安全運転ができるかどうかを試験官は重視していると私は見ている。私は安全運転できそうだと判定されたのだ。安全運転とはパッシブなトロトロ運転ではない。アクティブなリスク回避を言うのだ。

試験官が判定してくれたように、私は無事故を続けている。そもそも、大型二輪免許保持者の事故率は極端に低いのではないか。それに、私が見かけによらずライダーだという事実が、周囲の人たちのバイクにたいする見方をすこしでも変えているかも知れない。好むと好まざるとにかかわらず、これはすべてのライダー、とくに大型二輪ライダーに向けられる視線だ。

実は、試験官のほかにもう一人、安全判定をしてくれた人がいる。中免とりたての頃、よくバイクで帰省したものだ。オートバイなどとは親戚一同縁がないこともあり、近くにある実家に集まった母とその姉妹たちが、「バイクなんて危ないから、汽車で帰ってくればいいのに」と私のことを心配して話題にしていたとき、それをそばできいていた祖母が、いきなり、「なにを心配することがある! あの子なら大丈夫だ、心配いらない!」、と諌めたそうだ。若いときから才女の働き者で知られた女性だったそうだが、母方の祖母のため、子供のころ正月とお盆に小遣いをもらいに行くくらいだった。その話を後になって母から聞いたとき、頭の下がる思いがした。「それでいて、無事着くまでいちばん心配していたのが、おばあさんだったんだよ」と母は付け加えた。

祖母は100歳で亡くなった。バイクをひとりで駆っていても、ひとりでないような気がするのは、そんなこととどこか関係あるのかも知れない。




追記 2011.9.26:9時間ではなくて10時間だった実技

先日、書棚と書類を整理していたら、出てきました――貼り付けられている写真もなつかしい「教習手帳」。それを見ると、技能教習課程は3段階の各3時間というのはわたしの思い違いで、じつは第1段階が3時間、第2段階が4時間、第3段階が3時間の、計10時間でした。第2と第3段階で1時間ずつオーバーしたので、トータルの教習が12時間だったことには変わりがないのですが、人間の(たんに私の、かな)記憶はあてにならないもの。

免許を取ったらその後自動車学校の教習時間の改変には無頓着でしたが、ちょっと気になって現行の教習時間数を調べたら、これまたびっくり。普通自動二輪MT(つまりわたしが取得した中型免許)は現在では第1と第2の2段階式。四輪の普通免許を持っていると、第1が9、第2が8時間の、なんと計17時間! 普通免許などがない場合は、第2段階が2時間増えて、計19時間!! 最近の中型ライダーはこんな試練と負担に耐えてきたのか。

これって、どういう目的で変えられたんでしょう。単純に想像するに、たった10時間の実技では、バイクを乗りこなすにはまだまだ未熟だ、ということでしょうか。表向きの目的はどうあれ、これでは二輪免許取得の障壁を高くしているように見えます。それとも、生徒数の減少に悩む自動車学校の、せめて授業数を増やしてやろうという配慮が働いているのでしょうか。



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