キルスイッチでアイドリング・ストップ (10.8.28)


信号待ちで停まったとき、エンジンを切ることがあります。いわゆるアイドリング・ストップ。エコや燃費向上が目的であるのがふつうでしょうが、私の場合は直接の動機が違います。私の水冷ナナハンはドイツ寒冷地仕様で放熱量が多いのか、それともラジエータの熱風の流路がうまく設計されていないのか、高速を走っているときでも夏場はシートが熱くなります。ですので走行中でもときどき伸び上がって股ぐらを冷やさないとなりません。

走っているときでさえこの有様だから、炎天下に信号で停まろうものなら、ラジエータの熱風がもろに襲ってきます。そこで、ラジエータが回り出さないうちにエンジンを切ってみました。すると、あらまあ、なんと静かで気持ちのいいこと。一緒に停車している四輪はそもそもアイドル音が少ないし、ヘルメット越しでもかすかな風の音さえ聞えます。意外と静寂です、信号待ちの路上。

むろん、無駄なガソリン消費を節約しようとのエコな気分もないわけではありませんが、そもそもツーリングがメインなので、エンジンを頻繁に止めることなどありません。バイクは、マグロやサメのように泳ぎ続けないとならない生きものであって、渋滞でも立ち止まらずに走り続ける(すり抜ける)のもバイクの宿命からして当然のことと割り切っています。ですので、たまにアイドリング・ストップを行うことにわずらわしさはありません。

ただ困るのは、メインスイッチをOFFにすると、ブレーキ・ランプもウインカーも消えるので、すぐにONにして電気系を回復して、ウインカーを出し直さないとなりません。これがスマートじゃない。

それがあるとき、手元のキルスイッチが使えるんじゃないか、と気づいて試してみました。するとエンジンだけ止まってくれて、ウインカーも点滅し続けてくれます。おお、これはなんて優れもの。バッテリーを考慮してヘッドライトは消して、テールランプとポジションランプだけを点灯させる。(ただし、ヘッドライトが常時ONになっているモデルは困りもの)暗い夜は後続車が後ろにつくまでは、ブレーキランプも点灯させる。キルスイッチをもとに戻すだけで、スタータボタンで再始動できる。

それまで、キルスイッチは非常時しか使ってはいけないものと思い込んでいました。そこで、ネットで調べてみると、ずいぶんいるもんです、キルスイッチでアイドリング・ストップを励行しているライダー。もちろんメインスイッチ党も含めて、エコ派、燃費派がほとんどで、私のように不純なキンタマ保護派は見かけませんね。そりゃ、ま、いないわな。

で、キルスイッチを多用することで不具合を生じたという事例がじっさいにあるのかどうか、ネットで検索すると、一例が見つかっただけで、キルスイッチ実践派からは経験に裏付けられた自信のコメントが並びます。その故障例というのも、真夏の渋滞に巻き込まれて、熱ダレ対策でキルスイッチのオンオフを続けていたら、エンジンがかからなくなった、というもの。結局スイッチの接触不良によるもので、ディーラーで分解掃除しただけで回復したという。これもドイツ車。めったに使わないスイッチは、かえって接触不良を起こしやすいということか。

おもしろいのは、キルスイッチ以前の議論として、アイドリング・ストップそのものに疑問を呈する反対派の意見。そもそもバイクはアイドリング・ストップするようにつくられていないから、電気回路に負担をかける。とくにバッテリーが上がる、セルモータがイカれる、5分以上停止するのでなければエコにならない、スイッチも故障する、いわんやキルスイッチは非常時以外は使うもんじゃない、などなど。

おそらく、どれだけ頻繁にエンジンをオンオフするか、皆さん想定が違っていることもあるでしょう。そりゃあ、都内だけを走って、止まる信号でことごとくエンジンを切るようでは、機械である以上パーツの消耗の問題が出てくるのは当たり前。現にエンジンのオンオフを繰り返す教習所のバイクではバッテリー上がりは日常的なもの。私も教習時代に教習車のバッテリーが上がったことがあるが、教官はここぞと押しがけを教えてくれた。教習車で最初にだめになるのはセルモータという話も聞くが、それもなるほどと思う。ならば、メーカーはレースからだけではなくて、もっと苛酷な教習所からマシンの耐久性向上のフィードバックを得るべきでしょうね。

まあ、過度なオンオフは、機械によくないのは当たり前のこと。けれど、たかが信号待ちのアイドリング・ストップごときでキルスイッチは壊れるものなのか。ならば、しょっちゅう活躍するウインカースイッチはどうよ。どうも反対派の分が悪いのは、自分で試してもいないくせに、聞きかじりを吹聴していることですな。たしかに、バイクの取扱説明書にはキルスイッチの注意書きがあります。

エンジンキルスイッチ
 キルスイッチは、転倒またはスロットル系統に異常を生じたときなどの
 非常の場合に、手もとですぐにエンジンを止めるために設けたものです。
注意: キルスイッチは非常の場合以外は使用しないでください。走行中に
 メインスイッチおよびキルスイッチを ON→OFF→ON にすると、エン
 ジンの回転が不円滑となり、走行不安定の原因となります。またエンジン
 にも悪影響をおよぼす恐れがあります。
上記は25年前の私のCBX400Fの取扱説明書の記述。ホンダの現行機種の取説はHPからダウンロードできるようになっています。試しに、CB1300SFのその項をみると、呼び名が「エンジンストップスイッチ」と物騒さが緩和されていますが、記述はCBXのものと全く同じまま。ということは、この注意書き以外の使い方でキルスイッチにまつわる不具合の事例がとくにない、という帰結になりそう。

ついでに私のK75Sの英文取説はどうなっているかというと、スイッチ類の図に添えられた説明が

Ignition kill switch
Centre position: All electrical circuits energized when ignition on
たった、これだけ。名前がすなわち使い方を表しているということか。センターポジション(BMWのキルスイッチは左右どちらかに振ると切れる)にしておくことで、メインスイッチONですべての電気回路が通じる、という説明。あれするな、これするな、の注意はない。きっと、走行中にエンジンを切るかどうかは、異常事態についての対処の問題であって、それはライダーが判断することとの暗黙の理解があるものか。そう見ると、ホンダの記述が、走行中に「ON→OFF→ON」するな、という妙な表現をとるのは、エンジン異常でもないのに止めるな、という含みを持たせた工夫なんでしょうが、日本のライダーは子供かい、と失笑しそうです。

ある掲示板に、そんなメーカー側からのコメントが紹介されておりました。 

『そもそも、手元で簡単にON/OFFで切り替えられるスイッチが故障などの
 致命傷に繋がることがあっては大変な事です』
さすが日本メーカー。これが設計思想というもの。ようするに、どう使うかはライダー次第。不具合が生じたら、メーカーに改善を要望してあげましょう。むしろ、普段使わないでいるスイッチはクモの巣が張って接触不良寸前かも。機械や道具というものは使うことでよりも、使わないことで具合が悪くなるものなのだよ。それは、ヒトも同じか。


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