Emotion Engine (99.4.8 追記 00.4.22/01.4.28)


バイクに生き物のような躍動感を感じるのは、なんといっても、そのエンジンによるところが大きい。アクセルに対するレスポンス、スムーズな吹け上がり、回転数が上がるにつれて変わるエギゾーストサウンド、それにエンジンそのものの顔。ブレーキ性能やサスペンション、タイヤ、重量配分などを考慮したトータルバランスを考える上でも、まずエンジンが中核にある。ジェット戦闘機がその巨大なエンジンに燃料タンクと翼それにコックピットを付けただけのように見えるのと同様、バイクもエンジンにタンクとタイヤをつけた乗り物と考えることができる。バイクのコンセプトデッサンがたいてい戦闘機であるのは、偶然ではない。そのエンジンの性能と性格がバイクの持ち味になっている。

先月初め、SONY のプレイステーション2の発表があった。私はビデオゲームにはほとんど関心がなかったので、どうして日経産業新聞が一面トップでこのゲーム機を取り上げるのか、興味をそそられた。そうしてこのプレステ2がゲーム業界のみでなく、パソコン業界まで変えてしまうかもしれない可能性に気づかされた。

そのプレステ2は、CPU にけた外れの性能を持たせて登場してきた。なんとスーパーコンピューター並の3D処理能力をもっていたのだ。その夜のテレビのニュースで、デベロッパー向けの発表会でスクリーンに映し出された画像は、まるで生きているような自然な動きを見せていた。その2週間ほど後に、アメリカで同様なデモがあり、New York Times のWeb版でも詳しく取り上げていた。その記事のなかで、SONY 側のコメントとして、「ゲームはこれからは、シューティングやカードライビングばかりではなく、世界の偉大な文学や映画に迫る作品が出てくることを期待したい」とのくだりを引用していた。そんな情感にせまる表現力を可能にしたそのチップをSONYは、Emotion Engine と名付けた。

この名前は奇しくも、これまでパソコンに欠けていたものを表現するものにもなっている。これまで、MPUはひたすらクロック周波数を上げてきたものの、それで表計算が早くなったり、PhotoShopでの画像処理が高速になりはしたが、それによって得たものは、ただ現有パソコンの陳腐化と買い替え願望の助長だった。どれだけ高速なチップが出ても、これでいいという限度がなかった。なぜか?

パソコンに欠けているもの、それは楽しさだ。ワープロや表計算ソフトは、それはそれでありがたいものだが、それがパソコンの主な使い道であるなら、アラン・ケイが初めて構想したパーソナルなコンピューターの姿とはずいぶん掛け離れている。だから、今のパソコンよりもビデオゲームのほうが、きっと楽しいのだ。「ハイパーメディア・ギャラクシー」(福武書店 1988年)や「大衆との決別」(BNN 1995年)などの先見的なメディア論で知られる浜野保樹氏は、そのエッセーの中で、「コンピューターのディスプレイに涙したことはあるか」と問いかける。

どちらかというと理詰めの話ばかりが強調されるコンピューターだが、ほんとはエモーショナルな要素が必要だったのだ。SONYが掲げたこの名前を目にしたとき、ぽかんと頭を打たれた気がした。心を熱くするようなEmotion Engine のモーターサイクルを、それが当たり前だったがゆえに、そう呼ぶことさえ私は、考えつかないでいた。





追記:プレステ2の波紋(00.4.22)

もちろん私も買いました、プレステ2。発売日に近所のお店に行ったら、案の定売り切れ。予約しようにも、入荷予定なし、という。それならばと、playstation.com にオンライン注文したら、2週間後の指定日に届きました。はじめてゲームソフトを試したけど、まるで映画がインタラクティブになったようで、すごいですね。

1年前の発表から、このプレステ2をめぐってはいろいろ話題がありました。Emotion engine をいわゆるウインテル連合への挑戦として公言したこと、このゲーム機を家電ネットの中心に据えたSONYの組織再編、Linuxをプレステ2のソフト開発環境に選んだこと、発売に当たっても、数日で100万台売ったこと、playstation.comでオンラインショッピングを立ち上げたこと、一気にDVDソフト市場を出現させたこと、などインパクトがありました。初期ロットの付属ユーティリティディスクに「不具合」があって、ちょっといじると、本来再生されないはずの海外版DVDビデオが見れてしまうという「おまけ」が付いてきたこと、某ソフトメーカーがOS市場の独占を切り崩されそうだとばかりに、X-BOXなるゲーム機の構想を発表したりと、その余波はまだまだ続きそうです。

あとは、ネットワークを中心に据えたSONYが、VAIOにいつまでWindowsを載せ続けるかどうか、これからの進展も興味が尽きません。なんでも、プーチン次期大統領は当選するや、セキュリティの危うさからロシア全軍と関連組織からマイクロソフト社製Windows OS 全バージョンと同社製ソフトの排除を命令したとか。当然のことで、まさか今まで実際にWindowsをネットワークに使っていたのではないと思いますが。

さて、海外版DVDビデオが見れてしまうという「欠陥」についてですが、私はPS2を買うまで、地域限定コードなるものがあるのを知りませんでした。でも、これって、良く考えるとヘンですね。このインターネットショッピング時代、しかも自由に人が国境を越えて行き交う時代に、アメリカでお土産に買ったDVDビデオが再生できないシステムなんて、時代錯誤もいいとこ、鎖国政策みたいです。私の購入したのは、その「欠陥」付きのバージョンですが、SONYがディスクを交換する、と言っても、そこまで応じる人がどれだけいますかね。むしろ、ありがたい「特典」としてSONYサマサマでは。




追記 2:PS2 Linux Kit(01.4.28)

SONYは4月26日、プレステ2で動作するLinuxを公開して、キットとして6月から発売すると発表して、playstation.comでも専用のページを開設しました。やっぱり。

http://www.jp.playstation.com/linux/

Linuxコミュニティからの要望に答えたものですが、開発環境がそもそもLinuxだったとはいえ、対応が早いことに感心してしまいます。多分以前から本気で準備していたものと思います。このキットはまだプログラマー、開発者向けのようですが、ひとたびLinuxが動けば、あとは一般ユーザーでも使えるアプリケーションの充実は時間の問題でしょうね。



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