新Z2伝説 (99.6.5 / 追記 99.10.9)


Zephyrという英語名のネイキッドモデルを初めてカワサキが出してきたとき、ゼフィルスをバイクの名に選ぶとは、カワサキにしてはシャレた発想だ、と感心したものだ。Zephyrus、ギリシャ神話の西風の女神、が語源だが、私には同名の蝶(ミドリシジミ)がまず思い起こされたのだ。

カワサキが英語名を選ぶに当たっては、たぶんそれはまずZで始まらねばならなかったと思う。ネイキッドモデルとしては先発ではなかったが、空冷四気筒エンジンを載せたオーソドックスなデザインは、その後のネイキッドブームにとって火付け役となった。そこに、頭文字のZから、かつてのZ2のイメージをカワサキファンは認めることになる。

Z2、ゼッツー、と呼ぶのが慣例だが、その時代を共有していない私には歯が浮いてしまう。750RSを、輸出向けの900ccのZ1にたいして、Z2と通称した。このZ1開発ストーリーもまた歴史のドラマで、その後のカワサキのバイクに、ある種硬派のイメージを与えることにもなった。

当時、750ccのDOHC四気筒バイクを開発中のカワサキの先を越して、ホンダがSOHC ではあるが750ccのCB750 FOUR を登場させてきた。1969年のことだ。ナナハンというのは、このCB750 FOURのホンダ社内開発コード名だったという。先を越されて、カワサキのプロジェクトは一時暗礁に乗り上げるが、やがて排気量を900にアップした輸出用のZ1を完成させる。雑誌などの写真で見るだけでも、その流麗なデザインは当時も息を飲むほどだったのではないか、と想像できる。寝ぼけたカタツムリの目、と形容されるカムシャフトのDOHC空冷エンジンは、その造形美を見るものに感じさせただろう。そして、タンクからテールカウルまで流れるようなグラフィックが、バイクデザインの新しい境地をも開いていた。今では当たり前になってしまったが、そもそもテールカウルにデザイン上の意味を持たせたのも、このZ1が最初だったはずだ。

やがて国内向けに750ccに排気量を落として投入されたのがZ750RS。すでに市場で先行していたCB750 FOUR にたいして、性能面、デザイン面で上回ったものの、750RSは逆境を強いられた。白バイにも採用されて陽の当たるところを走るCBにたいして、750RSにはアウトサイダーの影がまとわりついた。そして、ナナハンバイクによる事故の増加にたいして、二輪の免許制度が改正されて大型バイクの限定解除試験制度が始まった。乗れなくなったナナハンはやがて伝説になった。

さて、ゼファーがZ2のデザインを踏襲したにせよ、実際にその再来としてブームをカワサキが期待したかどうか、わからない。少なくとも、発売当時の雑誌広告からはそんな意図は感じられなかった。400のゼファーはむしろ、オートバイの原点、ツーリングをテーマにしていたし、同じゼファーでも、750の広告は400とは違って、伝統美を強調した凝ったものだった。しかも、400より曲線を多用したそのデザインは、カワサキにしてはどこか女性美を連想させるものだ。

思うに、性能を落としてまでデザインを優先させたのは、ゆとりと遊び心もあったのだろう。GPZ400Rの予想以上のヒットのおかげかも知れない。しかし、たとえ世のモーターサイクリストが皆、ゼファーにZ2を見たわけでもないにせよ、少なくともバイク雑誌はそのイメージを押し付けてきた。それに押されてカワサキも、スポークホイールのRSバージョンを追加する羽目になる。ノスタルジックではあるが、かつてのZ2のオーナーを目覚めさせるかも知れない。いずれにしても、まとわりつくゼッツーイメージはZephyrにも迷惑だろう。iMacに初代Macintoshを見い出すマックユーザーが、どれだけいるだろう。

私には、Zephyr750 は、ゼフィルスだ。蝶の羽のようにメタリックカラーがきらめくボディーからは、アウトローの匂いではなく、エロスの香りが漂ってくる。





追記: KAWASAKIファンのかたが、その名も『Z750RS』のディレクトリー名でホームページを開設されています。そこには、この「楽しいバイクライフのために」とコンセプトの共通するエッセイが、グラフィカルなページに収まっています。Z2ファンならずとも、楽しめるサイトです。(99.10.9)





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