ホンダが先月発表した4ストローク水冷エンジンのスクーターGiorno Creaは、新聞では小さく扱われていたので、危うく見落とすところだった。行きつけのバイク屋さんから、ホンダが2ストを全廃する、と聞いていたので、てっきり原付きスクーターそのものを止めてしまうものとばかり思っていた。4ストではコストが合わないだろう、と考えたからだ。それが、こんなに早く、しかも50cc原付きモデルを出して来るとは意外だった。水冷の50ccを量産車に搭載するのは世界で初めてとのこと。率直にホンダに拍手をおくりたい。
4スト派の私だが、駅までの通勤には原付きを利用している。2ストマシンだ。もちろん4ストが欲しかったのだが、スクーターでは4ストは無かった。まさかカブとはいかない。そこで、「二輪車排出ガス規制適合スクーター」というホンダの新発売の機種にした。排ガスのための新しい機構を取り込んでいるせいか、はじめ不具合があってリコール修理もしたし、馬力がいまひとつと感じるのだが、それでもコンセプトを尊重して愛用している。
2ストの問題は、排気ガスそのものより、その吐き出す白煙のほうが迷惑だ。他の2ストスクータ−の後ろを走ると、たいてい臭い白煙を浴びることになる。整備不良の2ストクオーターだとオイルまでまき散らしてくれるので、CBXで新宿まで通勤していたころ、よくヘルメットのシールドが汚れた。
ホンダが2スト二輪車を4スト化しようという方針は、すでに97年12月24日に発表されている。たしかに2ストには2ストのメリットがあり、しかも2ストでも排気ガスの対策の試みが各社でなされていようが、環境を考えるとやはり4ストロークエンジンの選択が正しいだろう。
かつて15年前、50ccスクーターが全盛を極めていたころ、2ストに混じって唯一ホンダはボーカルという4ストモデルを持っていた。最高出力4ps、最大トルク0.43kg-mという、控えめというより見劣りのする動力性能が、人気の出なかった原因ではなかったか。他の2ストモデルは普通5ps、なかには7.2psのモデルもあり、若者を引きつけたことは想像に難くない。当時は50ccに限らず、中型も馬力戦争のまっただ中にあった。
2ストだからといって原付きスクーターを悪者扱いするつもりはない。多分統計をとれば、排気ガス汚染の元凶は圧倒的に四輪、しかもディーゼルエンジンのトラックや整備不良車によるものだろう。それに比べたら、原付きの白煙などたばこの煙のようなものかも知れない。だいいち、走行距離と燃料消費量が比較にならない。
しかし時代は変わった。絶対量がどうあれ、原付きでも、大型バイクでも、その選択から、乗り方、保守まで環境と無関係ではすまなくなっている。きっと、多くのライダーは、すでにその胎動に気づいていることだろう。知らないでいた私には、4スト水冷50ccは衝撃だった。
追記: 昨日の日本経済新聞に、このGiorno Creaの全面広告が出ていました。澄んだ空のブルーをバックにした、清々しいデザインでした。バイクの単一機種で、しかも原付きで、ホンダが全面広告を打つのは初めてのことではないかしら。その広告の中で、「最新のテクノロジーを、まずいちばん身近な乗りものから」のコピーが輝いて見えました。(99.7.30)