私のCBXストーリー (1)「雨中走行」(99.10.31)


もう13年も前のことになるが、夏休みに実家のある柏崎にバイクで帰省した。往復はいつも関越自動車道を使っていたので、ひとつ今回は信州経由でのんびりと東京に戻ろうと、直江津−長野−松本−中央高速のルートをとった。

さて、朝の10時に実家を出るとまもなく、雨がポツリポツリ、そのうち、本格的に降りだした。携行していた登山用のレインウエアを着て、運が悪いな、でもまあ、そのうち止むだろう、とあまり気にしなかった。じつは台風が接近しており、その雨雲が行く手に待ち受けていることを、そのとき全く知らないでいた。

長野県下の一般道は、意外と渋滞もあり、都内のようにすり抜けもできず、ツーリング気分を期待したもくろみははずれた。雨は止む気配もなく、高速の入口はまだ遠い。日がとっぷりと暮れると、シールドの水滴が対向車のライトを乱反射するので、視界がきかないときもあった。

やっと岡谷の高速入口にたどりついたときは8時を回っていた。走る車も少なく、そのまばらな車にもどんどん抜かされながら、真っ暗な中央高速を走る。明るく輝くメーターパネルだけが心細さを和らげてくれる。だが、降り続ける雨の中、暗闇にひとりになったとき、ふと不安がよぎった。いまここでバイクが故障でもしたらどうしよう。これだけ雨に降られ続けているんだ、水が電気系統まで入り込んでいないだろうか。ヘッドライトが切れたら...。そう思って赤く光るスピードメーターを見ていると、そんな私の不安をバイクが感じ取ったかのように、赤い光の答える声が伝わってきた。「わたしは大丈夫。心配しないで、まかせて下さいね。」そして、エンジンはゴオンゴオンと、変わらぬトーンを奏で続けた。

その無言伝心どおり、バイクは不調の気配を示すことなく、私を無事調布のアパートまで運びきった。11時だった。バイクの水滴を拭ってカバーをかけ、部屋に入って明かりをつけるとほっとした。ゴアテックスとはいえ山での使用でくたびれた雨具は、縫い目からしみ込む水で下着まで濡れていた。着替えていたとき、私の手が止まった。なにかがヘンだった。しばらく考えて、私は笑い出した。笑いが止まらなかった。食事や休憩の時間を引いても、延々12時間も乗りっぱなしだったのに、ストレスがなかったのだ。体のどこも痛くなかった。なんて愉快なことだろう。それが買って間もないCBXだった。私とCBXとのその後の長い付きあいは、こうして始まった。





[楽しいバイクライフのために] へ戻る