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-68- (2020.1 - 2020.12) 


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 (2020/8/21) 
事実の隠蔽 その10 ― 浮かび上がってきた「感染症ムラ」 

5月3日のこのコラムで、政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(当時)」が議事録を作成していないこと、さらに会議ではまともに議論がされた様子がなく、会議の前に提言集や資料が完成していて、会議ではその用意された結論を追認しているだけ、という事実を指摘しました。現在は会議は廃止され、経済分野の専門家などを加えた「新型コロナウイルス感染症対策分科会」と衣替えしましたが、今日現在の時点で、専門家会議については5月14日の第14回会議の「議事概要」が掲載されたきり、放置されていますし、分科会については、議事録も議事概要もなく、会議前に結論が資料として用意されているのは、前身の専門家会議となんら変わりがありません。

PCR検査の「許認可権」を振りかざすかのように、検査数を増やすことに抵抗する厚労省と、その下部機関としての「国立感染症研究所」が、どうやら閉鎖的なコミュニティーを形成しているらしい印象を受けておりましたが、この疑念に対して、上昌広・NPO法人医療ガバナンス研究所理事長は「感染症ムラ」と呼んで、その実態を明らかにしてくださっています。

資金と情報を独占する「感染症ムラ」 新型コロナウイルスと臨床研究
上昌広 時事通信社「厚生福祉」2020年7月7日号
記事の中で、メディアの報道に関しても、以下のように指摘されています。
「感染症ムラ」はピラミッド型の組織ではなく、「マフィア型」のネットワークといえる。医系技官・感染研は厚労省に、保健所・地衛研は自治体に属し、研究費の分配を通じて特定の研究者とつながっている。
 意思決定プロセスや責任体制は外部からは分からない。だからこそ、このようなことがまかり通ってきた。
 そして、メディアは彼らの主張を垂れ流してきた。
福島原発事故で「原子力ムラ」の存在が広く知られたように、新型コロナ禍の中で、またひとつ「ムラ」が見えてきました。


 (2020/7/18) 
データの可視化で見えてくるもの 

7月7日に掲載のグラフのアップデートを上記の「特集6」に継続して掲載することにします。現在東京都だけでで1日300人近い新規陽性判明者が出ていることが連日ニュースになっています。感染者の増加はPCR検査を増やしているからだ、と説明する向きもありますが、グラフの陽性判明者と陽性率の相関を見ると、逆に感染者の増加を検査が追いかけていることがわかります。



 (2020/7/7) 
事実の隠蔽 その9 ― 緊急事態宣言解除後のPCR検査数と感染判明者数 

前回6月1日掲載のグラフをアップデートしました。感染判明者の増加に、あわてて検査数を増やしている様子が見て取れますが、1日2万という掛け声はどうなったんでしょう。さっさと検査を拡大して、希望者は「陰性証明」を手に大手を振って、旅行でもスポーツ観戦でも、さらには災害ボランティア活動もできるようにすればいいのに、相変わらずメディアの議論は「自粛」か「経済活動」か、の二択問題に堂々巡りを続けています。



 (2020/6/1) 
事実の隠蔽 その8 ― 緊急事態宣言下のPCR検査数 

4月29日掲載のグラフはアップデートしたら横に長くなりすぎたので、週単位のグラフにしました。

繰り返しますが、これは厚労省のデータを加工・編集しているもので、PCRは人数でカウントしているので、退院のために患者に繰り返す検査を含めた「件数」とは異なります。ニュースでは感染者(陽性判明者)が一桁だ、二桁だ、小学校でクラスター発生、などと報じられますが、それよりも、PCR検査を増やして潜在的感染者を積極的に見つけようとしないことが、常に問題の根源に横たわっています。



 (2020/5/19) 
事実の隠蔽 その7 ―「必要な人にPCR検査を」という掛け声の無策 

5月3日の週別グラフに今日までの分を追加しました。さらに陽性率を線グラフで加えました。陽性率とは言っても、緑の数字を青の数字で割っただけのものです。元の厚労省のデータは正確さに疑問がありますが、毎日更新されるので、変化の傾向を見るには役立ちます。

感染者数、陽性率共に下がったのは、もちろん国民が外出自粛要請にしたがい、店舗や施設が閉鎖または時間制限したことが理由ですが、それが数字として結果に現れた、ということが分かります。けれど、PCR検査人数が一日5千程度のままであることから、検査数を増やす方策が取られていない、ということも分かります。死亡者を少なく抑えられたのはPCR検査の絞り込みが成功したから、と論ずる人さえいます。そうでしょうか?

政府や厚労省は、「必要な人に」PCR検査ができるようにすると繰り返してきましたが、そのスローガンがここに来て、揺らぎそうな気配が見えて来ました。一つは、感染者は発症後ではなくて、発症前の方が他人に対する感染力が強いということ、また発症してから数日で感染力が下がること、が分かってきたこと。だから、発症する前の感染者を捕まえないとなりません。ということは「必要な人にPCR検査を」というスローガンは意味がないものになります。

検査を今の10倍、100倍に増やす体制を取らないとならなくなるケースは目前に迫っています。まず、海外からの訪日客に対して、国は、入国時ではなくて出国時に、あらかじめにPCR検査での陰性結果を搭乗条件にする必要があるでしょう。その時、日本からの海外渡航者も同様に、日本で検査を済ませないとなりません。同様に、今は「県外から来ないで」という声が地方の観光地で聞こえますが、これは自殺行為ではないでしょうか。むしろ「事前に検査をされて、ぜひお出でください」と呼びかけるべきでしょう。ドイツのサッカーリーグは、PCR検査で陰性を確認した上で選手にプレーをさせています。ならば、オリンピックは言うに及ばず、でしょう。



 (2020/5/9) 
ミッション ― 路上アーティスト 

バンクシーの新作がサウサンプトン病院に」 の見出しでイギリスBBCは、看護師をスーパーヒーローとして描いた絵が、病院の緊急病棟に掲げられたことを報じています。

コロナウイルスから市民を守るために奮闘している医療従事者に感謝の意を込めたバンクシーのその絵には、医療マスクと赤十字マーク入りのエプロンを身につけた人形の看護師が、空飛ぶスーパーマンのように、右手を前に差し伸ばし、マント(ナース・ケープ)をたなびかせています。それを片手で高く掲げている子供のそばのゴミ箱には、その子のヒーローだったバットマンとスパイダーマンの人形が見えます。

記事に添えられた動画は、展示されている病棟の様子と、この作品で勇気付けられ、士気を高めている医療従事者の生のことばを伝えています。 このバンクシーの新作は、秋までここに置かれて、その後オークションにかけられ、NHS (National Health Service 国民保健サービス) の基金にされる、とのこと。NHS とは「イギリスの国家予算の 25.2% が投じられている国営医療サービス事業」で、記事では医療機関とその従事者を指す一般名詞として使われていることが分かります。

記事は、バンクシーと同じように医療従事者に感謝する国民の気持ちを代弁する、もう一人の路上アーティストを紹介する動画を掲載しています。イギリス北部の小さな町ポンテフラクトに住む壁画家(mural artist)のレイチェル・リストさんは街中の壁にNHSへの感謝を込めた壁画を描いて、住民から大きな反響と賛同を受けています。「私がやらないと、他に誰もやらないと思って」始めたと語る彼女は同時に、外出制限に反する行為では、と心配する人に対して、許容される散歩の時間でやっていること、いずれの絵も自宅から徒歩2分の範囲で描いていること、そして人と接触しないよう早朝の時間帯に作業していること、などを語っています。NHSの文字を急いで壁に書きあげて立ち去ろうとする看護師の姿は、アーティスト自身と重なっています。



 (2020/5/6) 
"The Mission" ― 病院屋上のバイオリニスト 

バイオリン製作の聖地クレモナの病院の屋上から、バイオリンのソロが響き渡る。コロナウイルスと闘う市民と医療従事者を励ますために、市と病院が企画したチャリティ映像配信。 曲は、ロバート・デニーロ主演の映画『ミッション』のテーマ曲 "Gabriel's Oboe" 。イタリア人作曲家、エンニオ・モリコーネによるオーボエのための原曲youtube。サラ・ブライトマンが "Nella Fantasia"youtubeのタイトルでヴォーカルで歌ってさらに知られることに。演奏しているのは、クレモナ在住の日本人バイオリニスト、横山令奈さん。音楽家のミッションをひとつ示してくれました。

You-Tubeには、このチャリティ・ムービーを製作した Pro Cremona が詩のメッセージを添えています。

  バイオリンの美しい響きが、しばし救急車のサイレンにとって代わる、
  みんなに、私たちがいるからね、と知らせるため、
  みんなに、クレモナが今も奮闘しているんだ、と知ってもらうため。



 (2020/5/5) 
事実の隠蔽 その6 ― 解除基準なき緊急事態延長 

昨日4日、安倍首相は緊急事態宣言延長を国民に向けて説明する記者会見を開きました。先月のうちに延長を内定していたために、インパクトに欠けた会見ではありましたが、それでも、延長の根拠となるデータ、したがって解除となる条件が数値で示されるとの期待がありました。しかし、データと数値が示されることはありませんでした。言及されたのは、

「現時点ではまだ感染者の減少が十分なレベルとは言えない」
「医療現場のひっ迫した状況を改善するためには、1か月程度の期間が必要であると判断いたしました」
という、判断基準のない結論でした。対照的に今日5日、大阪の吉村知事は、府独自の解除基準を数値目標として発表しました。その条件とは、
― 陽性率が7%未満
― 感染経路のわからない人の数が1日の新規陽性者のうち、10人未満
― 重症者向けの病床の使用率が60%未満
― 前の週と比べ感染経路不明の人の数が増えていないこと
この解除基準は、論理的には今回の緊急事態延長の根拠の裏返しともなりえます。

本来、こうしたデータや数字をもとに議論するのが科学者のはずですが、政府の専門家会議は必ずしもそうではなさそうです。というのは、データに基づくよりも、むしろ、準備された結論のために、データを恣意的に援用しているフシが見られます。その例が、同じ昨日行われた第13回専門家会議の報告資料。その中に7ページにもわたって、「(補論)PCR等検査の対応に関する評価」が付帯しています。その書き出しが、

1.PCR 等検査の件数及び陽性率についての分析
 〇 5月1日の提言では、我が国のPCR 等検査数が諸外国と比べ限定的な中、新規感染
  者数が減少傾向にあることについての疑問も呈されていることなどに言及した。
 〇 この点(中略)10 万人あたりのPCR等検査数は、他国と比較して明らかに少ない状況
  にある一方、検査陽性率は(国名略)よりも十分に低くなっている。したがって、
  これらの国々と比較して、潜在的な感染者をより捕捉できていないというわけではない、
  と考えられる。(14ページ)
と、この資料を作成することになった背景が述べられています。けれど事実は、

5月1日の提言に「新規感染者数が減少傾向にあることについての疑問」は呈されていません。
 そこにあるのは、

他方、「PCR 等検査の拡充が途上であった中で、感染者数の動向を正確に捕捉できない
のではないか」との指摘も想定されうる。(4ページ)
〇 検査数が少なくても陽性率が低ければ「感染者数の動向を正確に捕捉」している、という
 ことにはなりません。そもそも、報告では日本の陽性率を5.8%としていますが、厚労省発表の
 データから計算すると、累計で8.4%、4月だけでは9.0%です(4月29日の当コラム)。
  これは件数で集計しているか、人数で計算しているかなどで変わってくるものでしょうが、
 その断り書きもなく、いわんや他国の集計条件がどうなのかも比較できません。

報告はこの後延々と、死亡者数と死亡率、検査数の推移、検査能力が拡充されなかった理由を展開するのですが、感染者の実態をデータで知ろうとする意識の不在に、サイエンスとしての危うさを感じます。



 (2020/5/3) 
事実の隠蔽 その5 ―「検査を増やすとヤバイ」 

前回示したグラフは凸凹が多いので、どう読み解いたらいいのか、迷ってしまいそうです。デコボコの理由は、検査する機関や会社が週末にお休みしたり、検査数を落とすことが影響しているのと、それと同時に、検査結果の判明にもそのぶん時差が生じてしまうことにもなっています。そこで、4月の週単位の1日当たりの検査数と陽性判明数をグラフ化してみます。(5月5日:第5週目 29-3 を 29-5 にアップデート)

はっきり見えることは、第2週目に検査数、陽性判明者数ともに大きく伸びて、その後検査数は約5千で横ばい、感染者数は下降傾向が見られる、ということです。別な言い方をすると、感染者数が減少しているように見えるのは、もちろん外出制限をかけていることの結果ですが、同時に検査数を5千件に留めているから、とも読み取れます。

どこかで、検査数を増やさせないという力が働いている、と見ないとなりません。

そもそも、ふた月前の2月29日、記者会見で安倍首相は力を込めて、こう述べていました。

「かかりつけ医など、身近にいるお医者さんが必要と考える場合には、全ての患者の皆さんが、
PCR検査を、受けることができる、十分な検査能力を、確保いたします」
さらに、4月6日には、対策本部の会合で「検査件数を1日2万件に増やす」と、数字を明言しました。ところが、事実は1日5千に止まっています。一国のリーダーが「1日2万件に増やす」と公言しているのに、その増やすためのシミュレーションを誰もしていないし、したがって誰も検証していないのです。

では、政府の専門家会議はいったい何を議論しているのか、その議事録に当たろうとしても、2月29日の第4回の「議事概要」までしか公開されておらず、その内容もメンバーが報告し合っているだけの発表記録であって、議論している様子がありません。その代わりに、会議に向けた資料は、作成者の名もなく、まるで「〇〇白書」のようにグラフを多用した、いわば完成された「提言案」になっています。その中で、PCR検査にどのように言及しているかを追って見ると、

<第8回 3月19日>
 すでに、検査受け入れ能力は増強されており、今後も現状で必要なPCR検査が速やかに
 実施されるべきと考えています。今後は、わが国全体の感染状況を把握するための調査
 も必要です。(資料PDF 16ページ)

<第10回 4月1日>
 感染が疑われる医療、福祉施設従事者等については、迅速にPCR検査等を行えるように
 していく必要がある。(10ページ)

<第11回 4月22日>
〇 PCR等検査は(中略)実施する人員が不足している
〇 また、検査を実施する現場からは(中略)PCR 等検査に必要な試薬類等の不足
 あるいは逼迫した状態を指摘する声が日増しに高まっている。(8ページ)

<第12回 5月1日>
・ 政府は(中略)PCR等検査体制の拡充に努めていかなければならない。「徹底した
 行動制限」を、一定程度緩める方向で検討するのであれば、なおさら、この感染者の
 早期把握の能力をあげていくことが重要である
PCR等検査については、次の専門家会議で再度議論を行う。(12ページ)
「PCR等検査は次の専門家会議で議論する」というこの一行が全てを物語っています。この5月1日の専門家会議を待たずに、緊急事態宣言の延長を「内定」した官邸でさえ、上掲のグラフの意味が分かったはずです。


 (2020/4/29) 
事実の隠蔽 その4 ― PCR検査制限作戦の破綻 

前回示したグラフをアップデートしました。縦軸のスケールが違っていることにご注意ください。4月1日から新規退院者数を加えました。新規感染者と新規退院者のカーブが逆転することが、終息への一つの指標にもなるのではないかと考えます。

4月29日12:00時点での累計値は、検査数が164,255人、感染者が13,852人、死亡者は389人。検査数に対する陽性率は累計で8.4%、3月は5.7%、4月は9.0%。この陽性率の高さが、PCR検査を制限してきた結果であるとともに、潜在的な市中感染者がいかに広がっているかを暗示しているように見えます。4月の1日当たりのPCR検査数は4,543人。



 (2020/3/29) 
事実の隠蔽 その3 ― だから対応が場当たり的に 

前回利用した厚労省HPの広報資料のデータをグラフにしました。「新型コロナウイルス感染症の現在の状況」は2月18日から毎日更新されており、その中に「PCR検査実施人数」「PCR検査陽性者」の累計数があります。その前日との差を日毎の「新規検査数」「新規陽性者」と見なして、その変化を視覚化したものです。

検査数が4日、20日、24日と突然4,000件に跳ね上がっていますが、集計のタイミングのずれなのか、資料にはその説明がありません。19日にマイナスが出ているのは「千葉県が人数でなく件数でカウントしていたことが判明したため、千葉県の件数を引いたことによる」との注釈があります。

3月28日12:00時点での累計値は、検査数が28,464人、感染者が1,499人、死亡者は49人。検査数に対する陽性率は5.3%、感染者の死亡率は3.3%。2月18日からの一日あたりの検査数は680人、3月だけに限ると933人。

24日にオリンピックが延期になると急に検査数も感染者も増え出しています。



 (2020/3/19) 
事実の隠蔽 その2 ― ダチョウの論理 
「ダチョウは敵が近づいて来ると頭を砂の中に隠す。見えないものは存在しないからだ」
「ダチョウの脳みそ」とか「ダチョウの論理」として知られる小咄。事実を認めなければ、事実そのものも存在しない、と考える人間の愚かしさをダチョウに喩えた警句。実際のダチョウにそんな習性はないし、足の速いダチョウだから、簡単に逃げられそうなものですが、その大きな体に比べて脳みそが小さい(らしい)ことから誰かが創作したものでしょうか。

厚労省のホームページに3月18日付けで「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年3月18日版)」という報道関係者向け広報が掲載されています。そこに国別の感染者数について、3月18日12:00現在のアップデートがあります。そこに掲載されたデータから、注目すべき国の感染者と死亡者、そしてその2つの比として私が計算した致死率はこのようになります。

感染者(検査陽性者)死亡者致死率(死亡者/感染者)
中国808,943,2374.0%
韓国8,413841.0%
日本873293.3%
アメリカ6,3621081.7%
フランス7,7301752.3%
ドイツ7,156130.18%
イタリア31,5062,5037.9%
英国1,950603.1%

「感染者」という表現が使われているので、そのまま引用しますが、正確には「検査で陽性が判明した者」という意味で、早い話が、検査しなければ感染者はいない、とダチョウは考えます。すぐに気づくのは、他国に比べて日本の感染者の少なさ、そしてその致死率の異常な高さです。積極的に検査を実施した結果、感染者が多いにも関わらず死亡率が低いドイツが、もっとも対策が成功している事例ではないかと思います。

PCR検査をできるだけ行わせない施策をとってきた日本政府は、検査能力がない、医療崩壊を起こさないため、と説明してきましたが、それではドイツや韓国でできることがなぜ日本ではできないのでしょうか。むしろ、無症状または症状の軽い感染者(未検査者)を放置することで、潜在的な感染を広めていたかもしれません。それを隠蔽するために、突如イベントの自粛や休校要請を出したり、そして今夜になって政府の専門家会議は会見を開き、数字の根拠も提示せずに、爆発的な感染の拡大の可能性はある、と「可能性」で警戒の継続を呼びかけていました。事実を隠蔽してきたツケが回ってくる「可能性」を見据えて、今からつじつま合わせを準備しているみたいに響きます。



 (2020/2/25) 
事実の隠蔽 ― 新型コロナの検査をめぐる怪 

拡大する新型コロナウイルス感染に対して、政府は今日25日に「基本方針」を発表しましたが、予想どおり、具体性のない、判断を他人任せにする、緊迫感に欠けた内容でした。

最大の失望は、発症者や医師が希望したらPCR検査を何時でも受けられるようにする対策が盛り込まれなかったことです。

そもそも、対策が後手後手に回っていることの一番の理由が、さっさとPCR検査をしていないからだとは、専門家が早くから指摘していたことでした。それはあたかも、実際は感染者が広がっているのに、検査をしないことで感染者としてカウントしない、つまり事実を隠蔽する策を続けているかのようです。さらに、そんな厚労省の発表する情報に、報道機関までもが、ある意味騙されたことも指摘しないとなりません。それを教訓とすべくひとつ事例を時系列で追います。

1.クルーズ船から19日に下船した栃木県の女性が21日に発症、22日に検査で陽性となる

これを伝えた時事通信の記事は

「女性は70代の夫と乗船。待機期間を終えた19日時点で発熱などの症状がなく、14日以降に受けたウイルス検査で陰性だったことから、19日に夫と共に下船した。下船後はバスで横浜市内の駅へ行き、自宅最寄り駅まで電車で移動、知人が運転する車で帰宅した」
クルーズ下船者が感染 栃木の60代女性 待機終了後、新型ウイルス初確認 2/22(土) 22:28配信
あれっ、とおかしな表現に気づきます。検査を受けたのが「14日以降」って何だ? 他の報道に当たると、同じ日の朝日新聞の記事には
「船内で14日にPCR検査を受けた。15日に判明した結果では夫婦ともに陰性で、19日に下船した。21日夜に38・7度の発熱があった。22日に県南健康福祉センター(小山市)に相談し、同日午前に指定された県内の医療機関で肺炎と診断された後、PCR検査で陽性であることが判明した」
クルーズ船下船の乗客に陽性反応 船内検査では陰性 2/22(土) 22:38配信
つまり、検体採取が14日、それから19日までウイルス培養器のような船内に留まっていたこと、下船時に検査していなかったことが分かります。しかも、下船後は指示されたとおり公共交通機関で帰宅していた。

2.19、20日に下船した乗客のうち23人が検査漏れだった

「検査漏れ」って、検査しなかったということ? 記事を読むと、

23人は19日、20日に下船したが、検体は感染防止のため2週間の自室内待機を始めた今月5日よりも前に採取したもので、その後は検査していなかった。19人が日本人、4人が外国籍。厚労省は今後、再検査を実施する。
厚労省、クルーズ船下船の23人で検査漏れ−新型コロナウイルス  Bloomberg 2/22(土) 20:19配信
検査はしたけど「5日よりも前」だと検査漏れ? そもそも報道では、「ウイルス検査で陰性が確認された乗客の下船を予定通り19日から始める」との厚労省の発表が伝えられていました。これでは誰もが、下船時に検査がされると読んでしまいます。現に、テレビの情報番組ではそのように誤解していた司会者やコメンテーターが多数おりました。

3.上記2つの事件の発生は厚労省の報道関係者向け文書に起因する

2月15日に、厚生労働省からメディア向けに下船に関して発表がありました。基本文書となるので、以下に全文引用します。

報道関係者各位
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号からの下船について

1 国立感染症研究所は、武漢からのチャーター便第1便から第3便までのPCR検査の結果(540人が陰性、陽性の1人についてもウイルス検出量は陰性に近いレベル)を踏まえ、14日間の健康観察期間中に発熱その他の呼吸器症状が無く、かつ、当該期間中に受けたPCR検査の結果が陰性であれば、14日間経過後に公共交通機関等を用いて移動しても差し支えないとの見解を示しています。

2 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客のうち、陽性者や陽性者と同室の方を除く70歳以上の高齢者については、PCR検査を実施済み又は実施中です。このPCR検査で陰性の方については、上記1の見解に基づき、14日間の健康観察期間が終了する2月19日から、この14日間の健康状態を改めて確認し、問題が無い方については更なるPCR検査を行わずに、順次下船していただくこととします。

3 さらに、陽性者や陽性者と同室の方を除く70歳未満の方については、2月16日目途から順次PCR検査を実施し、その結果が陰性の方についても、上記2と同様の取扱いとします。

4 この間同室者が陽性であった方については、その方について感染拡大防止対策がとられた時点から、上記2に従って対応します。

以上
なんて分かりにくい内容でしょう。要は、
5日から19日までの2週間のどこかの時点でPCR検査を受けて陰性であった乗客で、発症が見られない方から順次下船してもらう。下船後は公共交通機関等で帰宅してもらう。
というもの。そしてその判断の根拠として「国立感染症研究所」の見解を冒頭に使っています。だから14日に検査して陰性だった乗客が下船までに船内感染したとしても当然だし、5日よりも前に検査を受けた乗客であっても、「健康観察期間中」という表現の意図に気づかなかった係員が、「検査漏れ」の乗客の下船の手続きをとったものでしょう。下船した乗客の中には、下船前検査を再度やってもらうことを希望した方もいましたが、拒否されたと言います。

4.クルーズ船乗客になるべくPCR検査を受けさせないことが厚労省の指針だった?

上記の国立感染症研究所は、実は独立した機関ではなくて、厚労省の「施設等機関」つまり下部機関です。厚労省の意向を忖度するのは自然です。2月19日に研究所は「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例 (2020年2月19日掲載)」のタイトル名の文書を公開しました。

けれども、文書には、何人が何時PCR検査を受けたのか明示されてなく、代わりに「2020年2月6日から17日におけるクルーズ船乗員乗客の発症日別」の「確定症例」がグラフで示されています。確定症例とはPCR検査で陽性と確認されたケースを言います。ここでもおかしなことに「2月6日から17日」と言いながら、グラフの時間軸は15日までしかありません。代わりに、本文中に「無症候性症例の最近の検出の増加は、2月14日頃より体系立てて乗客の検体を採取し始めたことが一因と考えられる」とのくだりがあります。

どういうことでしょう? グラフから16日以降の感染確認数増加の事実を消したものでしょうか。現にある番組では、このグラフを提示して、隔離が成功していると説明した「学者」もおられました。でも乗員の発症は逆に増加しています。下船後の発症者は、今後も出ることが予想されます。

5.事実を隠蔽する愚策は、桜疑惑と根は同じ

実際は感染しているかもしれないのに、検査を制限すれば、感染者数は当然低く抑えることができます。検査能力のキャパが足りない、との政府の説明に対し、専門家は、民間の検査機関を利用すれば十分に対応できると、ずっと主張していました。これはもはや事実の隠蔽を画しているとしか思えません。

厚労省はひょっとして水際作戦だけで簡単に終息するものと高をくくっていたのでしょうか。水際の検疫策が奏功したことにするために、5日の隔離(検疫)開始後は感染例がないことが必要だったのでしょうか。そのためには、PCR検査を即座に全員に行うわけには行かなかった?

時々、国会はもっとこのコロナ対策を議論すべきで、野党は桜を見る会で政権批判などしている場合か、というコメンテータの方もいます。でも、都合の悪い事実を隠蔽する政府の体質は、桜もコロナも根は同じ。ただ、コロナウイルスが忖度には無縁だっただけ。

感染が報道され始めた早い時点から、テレビの報道番組などに出演されている感染症学の専門家、白鴎大学の岡田晴恵教授は早くから感染の早さと危険性について警告と対策を発していました。今、事態は教授が予知、危惧したとおりに推移していますが、当初は、危機を煽りすぎ、とか、心配し過ぎとの批判もありました。確かに、心配したほどの流行がなかったなら、結果としてバッシングを受けてしまうことも覚悟しないとならないでしょう。そのことについて、こう話したことが印象的でした。

「バッシングが怖くてこの仕事はできません。感染症の専門家は打たれ強くなければなりません」




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