「芝居三昧」のあの頃
国立劇場の売店の130円のミルクコーヒーさえ買えなかった。
きっかりの交通費とおにぎりと、三等席の切符だけ持って、今日は歌舞伎座、明日は新橋と、憑かれたように芝居三昧していたあの頃。
ビンボーだと思っていたのは自分だけで、国立文楽劇場の?落とし、初夏はこんぴら歌舞伎、地方公演AプロBプロ、山形の黒森歌舞伎と、駆け回っていたので、あたりまえだと友人たちは同情してくれない。
そんな中で1986年の秋、国立劇場で3ヶ月通して最高のキャストで上演された仮名手本忠臣蔵は、「この感動を伝えたい」と思った初めての狂言。
それから10年近く、芝居三昧は、制作のテーマとなった。
今年5月の個展会期中に、歌舞伎ファンの方がいらしたことをきっかけに、このたび、「最近のファンにも、昔の作品を紹介しては」という銀座九美洞ギャラリーさんのご好意で、歌舞伎シリーズのアンコール展を開くこととなった。(偶然だが、同ギャラリーは、歌舞伎座の裏手にある)
実はちょっと迷った。
ともかくヘタクソだ。伝えたい、熱い気持ちはわかるのだが、構図の未熟さ、版画においては技術の甘さ、目をおおいたくなる。しかし、周囲が見えなくなるほどの若さに自分ながら失笑いしてしまい、その量にあきれ納得し、今回はご好意に甘えることにした。
他の狂言、踊り、小品、文楽とあったが、一度には展示しきれないので、今回は第一回として、「歌舞伎・仮名手本忠臣蔵・大序より四段目まで」とした。
初個展から20年、ずっと見守ってくださったファンの方、そして初めてゴトウ千香子の作品をご覧になる方、これも一作家の記録として楽しんでいってくだされば、私はとてもうれしいです。
2003年秋 湯布院にて |
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