仮名手本忠臣蔵・五段目より十一段目 |
忠臣蔵五段目の幕開きは、初代辰之助の定九郎で始まる。
「五十両」とたった一言の科白の重さ。その迷いのない声。
一度みたら忘れられない、眼光の美しさと鋭さ。
六段目は、十七世勘三郎の勘平、七世梅幸のおかる、七段目は、十三世仁左衛門、いずれも鬼籍に入られた名優だ。
歌舞伎、文楽を見はじめて二十年が経った。丸本ものが好きだから、義太夫にハマッた。日本義太夫協会に入り、太棹三味線を買い、新橋の稽古場、築地のお稲荷さんの社務所、お師匠さんのご自宅と、約七年間。ちっとも上達しなかったが、撥を手にした。 叩き(太棹の胴を叩いて音を出す)は、最後までできなかったが、腹に響く音は、耳できき、目でみるだけの鑑賞とちがい、強烈なものだった。
実践することにより、より物語に深く入ってゆけるような気がした。
音をテーマにずっと絵をかき続けてきたが、振動も見えない音と感じ、目で見、耳できくことと同じく、感動をよぶものと、はじめて知った。
その後、素浄瑠璃の魅力に憑かれたが、忠臣蔵は、どのようにかたちを変えようとも尽きぬ狂言であることは、言うまでもない。
若いころの私がどこまで近づけたか今でも不安だが、二部編成の後半の、芝居三昧・仮名手本忠臣蔵。
ご高覧、心よりおまちしています。 |
二〇〇四年秋湯布院在住 |
ゴトウ 千香子 |
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