(あれって……) それは、白い小さなテディベア…。舞が産まれた時に、千歳が贈った物だった。 これを選んだ時の事は、今でも記憶に残っている。 ちょうど幼い千歳の目の高さに並んでいたテディベア達の中で、この純白のテディベアが まっしろ うぶぎ つつ 真白な産着に包まれた小さな舞と重なり、思わず手を伸ばしたのだ。 (まーくん…、まだ持っていてくれたんだ……) 産まれた時に贈られた物など、もう捨てられていてもおかしくない。ましてや舞は、高校生 の男の子なのだ。普通であれば可愛らしいぬいぐるみを部屋に置くなど考えられない。 それが、こんな風に大切に飾られている…。それは同時に舞がそれ程千歳を大切に思っ ているという事実を物語っているようで、胸が締め付けられるほど嬉しかった。 (まーくん、ありがとう……。僕も大好きだよ…) あいぶ 千歳は、舞の柔らかい髪に顔をうずめるように、頭を鼻先で愛撫した。舞がくすぐったさに よじ 身を捩るが、わざと気付かないふりをして続けると、舞の方も千歳の胸に顔を寄せてくる。 くすくすと笑い合い、心地好い安心感の中で二人はいつしか、どちらからとなく眠りに落ち ていた。 「とういう訳で、保留!」 きさき 翌日の放課後、理事長室で舞は后と向かい合っていた。 その言葉の割に、妙に誇らしげな舞の表情に、后は千歳との間で何かしら進展があった すいそく のだろうと推測し、微笑をもらした。 よしみ 「保留…ね、まあ良いだろう。顔見知りの好で無期限保留≠認めよう」 「ドーモ」 とげ 后は、舞の態度に刺が無くなっている事に気付く。どうやら、千歳と舞の間では本格的な 話し合いが行われたらしい。 (千歳の事だから、なにかとんでもなく悲観的に語ったんだろうね……;私がこんな≠ノなって せい しまったのは自分の所為だとか思っていそうだからな…;) 「………」 うなが なにか言葉を探すように自分を見つめている舞に、首を傾げて促した。 「あんた……」 今でも死んだ恋人が好きなのか…? 「うん?なんだい?」 中々言葉を続けようとしない舞に先を促すと、舞は何かを振り切るように首を横に振っ た。 「………いや…。…あんた、変な人だな」 「フフッ、ありがとう」 「褒めてねーよっ」 后が何を想っているのか、誰を思っているのか……。それを確認した所で、自分の気持 ちが変わる訳ではない。 千歳の事が好きで、千歳を幸せにしたい…。それが舞の一番の望みなのだ。后が誰を思 っていようとも、それが叶えられなければ意味が無い。 「どうだった?」 話が終わるのを廊下で待っていた弘人は、理事長室から出てきた舞に声を掛けた。 「うん、無期限で待ってくれるって」 「そっか…。でも、ホントにこれで良かったのか?」 「…今はまだ、答え出せねー。…俺の知らない事情も、たくさんあって…なんつーか、もっ と、俺自身も色々考えたい」 「………そっか」 (俺は気が長いから、…まあ、もう少し待っても良いけどね) お互いに言うべき言葉が見つけられず、何となく無言で歩いていると、前方から数人の生 徒がこちらに歩いて来るのが目に入った。 「「「「ゲッ……」」」」 「あ……」 いっせい その生徒達は、二人の姿を見ると(正確には弘人の姿を見ると)一斉に背中を向けて走り 去ってしまった。 「な…、なんだアイツら……」 舞が呆気に取られて呟くと、「あ、そうだ舞」と弘人が笑顔で問い掛けてきた。 「この前、舞のベルトを外したあげくにトイレに閉じ込めた4人組は、今の4人であってた?」 「……あ、ああ…。そうだけど……」 「そう。良かった」 (何かしたなっ!?) にっこりと笑った弘人の後ろに、一瞬カギ爪の付いた黒い尻尾が見えた気がした……。 ◆END◆ とりあえず、第一部完といった感じです。もちろん、これで終わりじゃないデスよ。 しかし、…舞って受けキャラ?…アレ?確か舞の名前を決める時、「攻めキャラなのに、名前が舞≠チて可愛いかな」と思って命名したはず……;アレレ?なんか受けっぽいですよね?まあ良いか(!?)これから舞が成長して攻めキャラへと進化していくのか、それとも、たとえ千歳とくっ付いたとしても受けキャラになってしまうのか…?でも正直、21話の挿絵描いてみて「ちーちゃん攻めでもイケルか…?」と思ってしまった…; てゆーか、腕枕されてちゃダメだろ、まーくん…。ガンバレよ……。 それはそうと弘人…。なんでこんな腹黒に?最初の設定では気は優しくて力持ち%Iなキャラの予定だったのに…。もう腹黒以外の何者でもないですよね;オカシイな…。椎名に続きここにもまた、一人歩きをはじめたキャラが…っ!? 2006.8.25 |
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漫画『実録!!「私はこうして騙された」』を見る(弘人×舞)
Fallin'
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