Fallin'
17


「ちーちゃんっ!」
「うわっ…」
 ガチャッっと玄関のドアを開けると、舞が仁王立ちで待ち構えていた。
「ど…、どうしたのまーくん…」
「ホントに誤解だから!弘人とはなんでもないっ。マジでただの友達!」
 どうやら、これを言いたくてずっとドアの前で待っていたらしい。

「…ただの友達…って、……あんなに熱烈にキスしてたのに…?」
 「まーくん、目うるんでたよ?」と靴を脱ぎながら言いリビングへ向かうと、顔を真っ赤にした舞が反論しながら後ろを付いて来た。
「あっ…あれはっ!弘人が……っ。…って、その…最近弘人の世話になる事が多くて…、なんつーか、お礼で…」
「ただの友達に、お礼でキスするの?」
 幼稚園の頃、舞と弘人がよくキスをしていたのは千歳も知っているが、友達同士では普通しないと教えてからはしなくなっていた筈だ。

 横目でチラリと見ながら言われ、ウッと言葉に詰まる。
(やっぱり、そう来るよな…)

「俺もよく分かんないけど…。多分、俺が気を使わないようにっていう弘人なりの気づかい…なのかな?たかがキス一つでも、お礼としてせがまれれば、それでプラマイ・ゼロになる訳だし…」
 その言葉に、千歳がピクリと反応する。

「たかがキス?…じゃあ、まーくんはお礼としてせがまれれば誰とでもキスするの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「じゃあ、弘人君だからするんでしょ?それって、ただの友達なの?まーくんは弘人君が好きなんじゃないの?」

「そんな訳ねーだろ!!」

 部屋中にビリビリと響くような声で怒鳴られ、千歳はビクッと舞を見据えた。その表情から、本気で怒っている事がわかる。
「……ごめん」
「あ…いや、……俺、弘人じゃなくて…他にすごく好きな人がいるんだ。…だから……」
「…っ、そっか……ごめん」
 二人の間に、気まずい沈黙が落ちる。

「あ〜あ」
 重い沈黙を破って千歳がわざと明るく声を発した。
「僕って駄目な叔父さんだね。やっぱり自分が良い恋愛してないから、こういう話は上手くいかないのかな?」
 冗談めかして言われたセリフに、舞が真剣な顔で問い掛けた。

「ちーちゃん…、それって自分でも理事長との関係は良くないって思ってる…。って事だよね?」
「っ……」
 舞は、図星をつかれた様に黙り込んだ千歳の肩を掴み、詰め寄った。

「ちーちゃん。真剣によく考えて答えてほしい。……もし、理事長に他の情夫との関係を切らせて恋人になれるのと、何の後腐れも無く別れられるのと、どっちか好きな方を選べるとしたら…どっちが良い?」

「……え?」

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