ヘリオブルー
レディッシュ
14
「せいちゃん。今、せいちゃんは私のトコに泊めるから、示し合わせてくれるようにって渡部君に電話しといたから…、今日はこのままウチに泊まりなさい」
生一は、そう言いながら寝室に戻ってきた蘭丸に小さく頷いた。
渡部は生一と寮の部屋が同じで、クラスも一緒であるため、蘭丸の次に親しい友人だった。
「ありがとう…。ごめんね、色々…」
遅い時間に突然訪ねて来た自分に、何も訊かずに甲斐甲斐しく世話をしてくれている蘭丸には、いくら感謝してもしきれない。
「いいのよ…」
蘭丸は微笑んで返しながらも、今の生一に対してどう接するべきか思い悩んでいた。
何かがあったのは明白だ。しかしそれを問いただして良いものなのか、それとも生一が自ら話す気になるまで気長に待つべきなのか……。
全く事情が見えないだけに、慎重にならざるを得ない。
「さ…、もう寝ましょうか?」
今日はもう生一も疲れているだろう。話を訊くにしても明日の方が良いだろうと、二人並んでベッドに入った。
「ごめんなさいね?まだお客様用の布団とか用意してなくって…。狭くない?」
「んーん、全然」
実際、蘭丸のベッドは豪華なセミダブルで、細身の蘭丸と小柄な生一では、二人で寝ても丁度いい広さがあった。
これが、ぴったり寄り添わなければならない状態であれば、さすがの蘭丸も理性を保てる自信はない。
「オヤスミ、せいちゃん」
「おやすみなさい、蘭ちゃん…」
笑顔でお休みを言い合い、二人静かに眠りについた。
カチ カチ カチ …
時計の針の音が、嫌に耳につく。
生一は溜息をついて真っ暗な天井を見上げた。隣では蘭丸が小さな寝息をたてている。
どうしてなんだろう…。
遙はなぜ自分にあんな事をしたのか。何が目的だったのか…。
何かを言われたような気もするが、あまりの事に何を言われたのか今一よく憶えていない。微かに記憶に残っている言葉も、今考えると聞き間違いだったのではないかと思えてしまう。そのくらい、遙の言葉は生一の理解の範疇を超えていたのだ。
そして、最悪のタイミングで帰ってきた共一……。まさか遙が、共一の帰宅時間まで予見して仕組んだ事だとまでは思わないが、全く動揺した様子を見せなかったのはどういう事なのか…。
わからない。…わからない。
ただ一つ、わかっている事は―――
「二度と遙に近付くな」
共一の強い怒り…。
(キョ…ウ……)
急激な心細さに、止まったはずの涙がまた込み上げる。
(イヤだ…イヤだっ、嫌いにならないで……っ)
静かな寝室に、生一の嗚咽が悲しく響いた。