ヘリオブルー
レディッシュ

15


 ……っ…っ……。

 蘭丸は微かな音に目を覚ました。物音に意識を集中すると、それが隣で寝ている生一のすすり泣きである事に気が付く。

「せいちゃん…。眠れないの?」
「…っく……っ…」
「せいちゃん……」
 蘭丸は枕元の明かりを点けて身を起こすと、仰向けで泣きじゃくる生一に覆いかぶさるように抱きしめた。

「どうして泣いてるの…?」
「…………っキョウ…にっ……嫌われ…っ」
 涙でつっかえながらのその言葉に、また共一絡みである事を知り、蘭丸の中に共一への怒りと嫉妬心が湧き上がる。
「どうして…、そんなにこだわるの?世の中には仲の良い兄弟もいれば、悪い兄弟もいるじゃない。それでもみんな、それなりにやっていけてるわ。双子だからって、兄弟仲が悪くなったら生きていけないなんて事はないのよ?」

 わかっている。本当は、共一に対する生一の思いがただの兄弟としての愛情だけではない事は蘭丸にもわかっている。
 しかし今は、それを隠して生一を宥めた。

「でもっ……」
 それを聞いた生一は、涙に濡れた瞳で蘭丸を見上げた。
「それでも…、僕はキョウが好きなんだ…っ嫌われたくないっ……」


  だけど嫌われた……



「せいちゃん………」

(蘭…ちゃん…?)

 蘭丸の顔がくしゃりと歪み、ゆっくりと生一に近付いてくる。
「せいちゃん酷いわ。…私の気持ち知ってるくせに……」
「!………」

 横っ面を引っ叩かれたような気分だった。
 思いを伝えるように、それでいて労わる様に触れた唇に、涙がこぼれた。

(ああ…キスされちゃった……。でも、今日清水先輩にもされちゃったし…、蘭ちゃんなら…いいか……)

 蘭丸が生一の事を好きだと知っていて頼ったのは、自分なのだ。それに、生一がいつまでもメソメソ泣いたりしていなければ、きっとあのまま朝まで静かに眠っていただろう。それをわざわざ起こしてしまったのも、また自分で…。蘭丸に何をされても、文句は言えない気がした。

 蘭丸の形の良い唇が、生一の頬、耳へと滑り、首筋をなぞって鎖骨へと下りる。細く浮き出た鎖骨に音を立てて口付けると、のどが「ヒュッ」と鳴る音と共に、生一の身体がヒクリと震え、一応、正常な男子である蘭丸は、その反応に興奮を覚えた。

「せいちゃん…、抵抗しないの?…私が何しようとしてるか、わかってない訳じゃないわよね」
 顔を上げて問いかけてきた蘭丸の言葉に、ただ黙って瞳を閉じた生一に、蘭丸はもう一度先程よりも深く口付けた。

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