ヘリオブルー
レディッシュ
19
「なぁんだ。じゃあ、『二人が階段の踊り場でキスしてた』って話も嘘なのね…」
蘭丸がつぶやいた言葉に、共一がピクリと反応する。
「あ、それは本当」
「は?」
ニッコリと笑いながら言い切った遙に、蘭丸が困惑の表情を見せる。共一は憮然とした顔で溜息をついた。
「なぁーんか、共一が踊り場の壁に寄りかかりながら、切なそうに窓の外眺めてたからさ…。『スキありっ』って感じで*」
要は、遙にスキをついて襲われた…と。
「その時共一、何見てたと思う?」
遙が、笑顔のまま目を細めて問いかけてくる。
「え?」
「遙っ!」
その言葉に、共一は慌てて一喝し、遙は共一の声にクスリと笑って肩をすくめてみせた。
そして、遙の 答えを促すような瞳に誘われるように、蘭丸の口が動いた。
「もしかして……、せいちゃん…?」
遙の口元が、正解を示すようにゆっくりと弧を描く。
三人の間を、しばしの沈黙が流れた。
共一は生一の事を嫌ってなどいなかったのだ。それどころか…。
「………なによ…。そう言う事な訳ね…」
蘭丸が呆れたようにつぶやくと、共一はバツが悪そうに舌打ちをした。
「ああーっもう!アンタのせいで私、とんでもない悪者になるとこだったじゃない!」
(ちゃんと両思いになるまでは…、と思って思い止まったから良かったけど、もしあのまま流れに任せてせいちゃんのこと抱いてたら……っ!)
…そう。完全に二人を引き裂く邪魔者である。
「な…何の話だ…っ」
突然キレだした蘭丸に、共一が慌てる。
「バカじゃないのっ?不器用なんて言えば聞こえは良いけど、単に意気地がないだけじゃない!気取ってんじゃないわよっ!」
「…なんだと?」
「そんなんじゃ、いつか横からさらわれちゃうわよっ。私の理性に感謝してほしいわね!」
その言葉に、共一のこめかみがピクリと動く。
「お前…、あいつに何かしたんじゃないだろうな……」
「バカにしないでよ!私は紳士よ!!」
(変な会話…)
突如ヒートアップした二人の言葉の応酬に、置いてきぼりをくらった遙だったが、その頭の中では(この子も可愛いけど、スキは全く無いなぁ…)などと考えていたりする…。
顔に似合わず、心はいつも獲物を求めるハンターである…。