ヘリオブルー
レディッシュ

19


「なぁんだ。じゃあ、『二人が階段の踊り場でキスしてた』って話も嘘なのね…」
 蘭丸がつぶやいた言葉に、共一がピクリと反応する。
「あ、それは本当」
「は?」
 ニッコリと笑いながら言い切った遙に、蘭丸が困惑の表情を見せる。共一は憮然とした顔で溜息をついた。
「なぁーんか、共一が踊り場の壁に寄りかかりながら、切なそうに窓の外眺めてたからさ…。『スキありっ』って感じで
*

 要は、遙にスキをついて襲われた…と。

「その時共一、何見てたと思う?」
 遙が、笑顔のまま目を細めて問いかけてくる。
「え?」
「遙っ!」
 その言葉に、共一は慌てて一喝し、遙は共一の声にクスリと笑って肩をすくめてみせた。
 そして、遙の 答えを促すような瞳に誘われるように、蘭丸の口が動いた。

「もしかして……、せいちゃん…?」

 遙の口元が、正解を示すようにゆっくりと弧を描く。
 三人の間を、しばしの沈黙が流れた。
 共一は生一の事を嫌ってなどいなかったのだ。それどころか…。

「………なによ…。そう言う事な訳ね…」
 蘭丸が呆れたようにつぶやくと、共一はバツが悪そうに舌打ちをした。
「ああーっもう!アンタのせいで私、とんでもない悪者になるとこだったじゃない!」

(ちゃんと両思いになるまでは…、と思って思い止まったから良かったけど、もしあのまま流れに任せてせいちゃんのこと抱いてたら……っ!)

 …そう。完全に二人を引き裂く邪魔者である。

「な…何の話だ…っ」
 突然キレだした蘭丸に、共一が慌てる。
「バカじゃないのっ?不器用なんて言えば聞こえは良いけど、単に意気地がないだけじゃない!気取ってんじゃないわよっ!」
「…なんだと?」
「そんなんじゃ、いつか横からさらわれちゃうわよっ。私の理性に感謝してほしいわね!」
 その言葉に、共一のこめかみがピクリと動く。
「お前…、あいつに何かしたんじゃないだろうな……」
「バカにしないでよ!私は紳士よ!!」

(変な会話…)

 突如ヒートアップした二人の言葉の応酬に、置いてきぼりをくらった遙だったが、その頭の中では(この子も可愛いけど、スキは全く無いなぁ…)などと考えていたりする…。
 顔に似合わず、心はいつも獲物を求めるハンターである…。

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