ヘリオブルー
レディッシュ
18
「!?」
遙の顔に視線を合わせた蘭丸は、その瞬間、目を見開き絶句した。
「……な…何で…?」
その左側の口の端には、遙の温和な顔立ちには不似合いな赤黒い痣が、クッキリと残っていた。
「ああ、これ?共一にやられちゃって」
驚きを隠せない蘭丸に、遙はニッコリ笑って言う。「笑ったりすると、ちょっと痛いんだけどね」などと言っているが、本人の表情や声を聞いている限り、とても痛そうに見えないのがまた怖ろしい。
しかし、いくら男同士とは言え、恋人に対してここまでの痣が出来るほど殴るというのは、少々やり過ぎのような気がしてならない。
蘭丸は、共一に疑問の目を向けた。
「ド……、ドメスティックバイオレンス…?」
「はあ?」
共一は、何を言っているのか分からない、というように眉をよせる。
「だって…、男同士でも、自分の恋人に痣が残るほどの暴力を振るうなんて……」
「………はあ!?」
共一は驚きと困惑、怒り、様々な感情が入り混じったような顔で蘭丸を見た。もうまさに、何を言っているんだろうかコイツは?という感じである。
「だっ…、誰と誰が恋人だって……?」
「え…。共ちゃんと清水先輩が…。って、…違うの?」
誰が「共ちゃん」だ、と引っかかるが、今はそれどころではない。
「ふざけるな!誰がこんな無節操眼鏡とっ…!」
「ひどいなぁ、無節操だなんて」
共一の言葉に遙が反論する。相変わらず笑顔だ。
「あのなぁ…。コイツは、人間なら何でも獲物にする、とんでもないエロ眼鏡だ。見た目に騙されるなっ!」
「は…はあ」
遙の反論を無視して、必死で蘭丸を諭す共一に、蘭丸はすっかり毒気を抜かれてしまう。
つまりは、生一に言い放った「二度と遙に近付くな」という言葉の真意は、『遙は危険だ』であって、決して『遙は俺のものだ』と言うような意味合いではなかった。…という事のようだ。
蘭丸が事の真相を理解し、共一の言葉の足りなさに呆れつつも少々の同情も感じはじめた時、遙が誰もが見惚れそうな優しい笑顔で口を開いた。
「正確には“人間なら”じゃなくて“器量良しでスキがあれば”…なんだけどね」
こんな男と恋人…ではなく、友人として付き合っているらしい共一は、実はすごく良い人なのかも知れない……。