心の棺
10


そうだ……

いつも寂しかった

…不安だった



毎日電話する事を
持ちかけたのも

実は
俺の方からで…


素直に寂しがる
クレアに
かこつけて

本当は自分の
屈折した不安を
解消させて
いた―――



離れる事が
不安だったのは

むしろ俺の方
だった



彼女が
手の届かない所に
行ってしまう事を

いつも
心のどこかで
恐れていた…―――



怖かった…



手にした温もりを
失う事を

ひどく恐れていた







「ふう……」
 尚也はベッドに腰掛けると、枕元の大き目のクッションに背中を預けた。
 今日の午前中は、病院で検査を受けてきた。動悸と心臓の違和感が心配だったが、検査の結果異常はなく、やはり強いストレスを受けた事が原因であろうという見解だった。

 ただ、心電図の波形が他人より変わっている…という事がわかり、少々驚いてしまったが……。医者の話では、一人一人の顔かたちが違うように心電図にも個人差があり、病気でもなければどこかが悪いという訳でもないので気にしなくて良い…という事だったが、最初に尚也の心電図を受け取った医者が「出るはずのない波形が出ているので、もう一度撮り直してくるように」と看護士に命じているのをハッキリと聞いてしまった尚也としては、(顔で例えると、目が三つあるとか、鼻と口の位置が逆だとかいうんじゃないだろうな……;)と思わずにはいられなかった。
 目が三つあれば明らかにおかしいが、かといって生活に支障があるわけではない。

(なんなんだ、まったく……;)
 なんだか疲れてしまった。

 日常生活の注意点としては寝不足と空腹、それからカフェインは発作を誘発する作用があるので厳禁との事だ。尚也は朝と毎食後にコーヒーをブラックで飲むのが習慣だった。特に朝起き抜けに濃い目に淹れたコーヒーは頭が冴える気がして好きだったのだが、発作の危険を冒してまで飲みたいとは思わない。

(…もう、一生コーヒーは飲めないのかも知れないな……)

 「たとえ完治しなくても気にしない方が良い」…要は、一生完治しない可能性をつきつけられた。


 クッションに背中を預けたまま、もう一度大きく息をつき、天井を見上げた。体に異常が無い事はわかったが、何もする気分にはなれなかった。

 自分がこんなに弱いとは思わなかった。

 何があっても、自分なら一人でも乗り切れると思っていた。



 今の情けない自分をクレアが見たら、…一体どう思うのだろう―――

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