You are my
reason to be…
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「まったく、何を考えてるんだお前たちは」
慶介が職員室の片隅で、教師に頼まれたクラス分のプリントをコピーしていると、後ろから溜息まじりの声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、出流(いづる)と、今朝もめていた生徒が、慶介に背を向けるかたちで立っている。どうやら、今朝の事で呼び出しを受けたらしい。
「あんまり騒ぎを起こすなよ」
一年生担当の生徒指導員である年配の教師は、全く反省の色を見せない二人の態度に、疲れた表情を浮かべている。
「高校生にもなって、入学早々親御さん呼ばれるのも恥ずかしいだろう」
「スミマセン、俺が悪かったです」
「「!?」」
突然、謝罪の言葉を口にし、神妙に頭を下げた出流に、もめていた生徒と生徒指導員はポカンと口を開けた。
「岩田…(だっけ?)、ごめんな、許してくれる?」
「あっああ、い、いいぜ別に。全然気にしてねーよ」
上目使いで申し訳なさそうに見つめてくる出流の美しさに、岩田と呼ばれた生徒はすっかり毒を抜かれて頷いていた。
「先生、俺たち仲良しです」
出流は岩田と手をつなぎ、肩の高さに掲げて見せ付けるが、その表情はいたって無表情だった。この言葉が本心ではない事は、出流に手を握られて、だらしなく鼻の下を伸ばしている隣の男以外には一目瞭然だった。その様子を見る限り、この岩田という生徒は、もしかして初めから、出流と仲良くなりたかったが為にバカみたいなちょっかいを出したのではないかと思わざるを得ない。
教師は、はあーっとあからさまに大きな溜息をつくと、
「…あーまぁ、これから気を付けるようにな」
と、二人に教室に戻るよう促した。
「なあ西原、今度どっか遊びに行かねー?」
「行かない」
とことん空気を読めない男のようだ。
「………」
「………」
職員室を出たところで慶介と出流は顔を見合わせた。
「さっき…、変な事言って悪かったな」
気まずい雰囲気をごまかすように、慶介の片手から丸まったプリントの束を奪いながら、出流が沈黙をやぶった。
「さっき…?」
「考えてみりゃ、お前にとって俺の事がどうでもいいのは当たり前だよな」
(ああ、今朝の事か…)
「何であんな事言ったのか、自分でもよくわかんないんだけど…さ」
本当に、なぜあんなに腹が立ってしまったのか。やつあたりもいい所である。
「………」
そこでやっと慶介は理解した。自分の冷静すぎた反応が出流に無関心感を感じさせていた事を。
「それは…」
そして言ってしまった。
「もしかして、寂しかったのか?」
・
・
・
な……
な ん て こ と
言 い や が る
(いっ…言うかっ!?普通そんなコト!?こんな真顔でっ!!)
慶介は至って真面目だった。変な事を言っている自覚は全く無い。
(変な奴!)
「変な奴だな、志村って」
「俺はお前の方が変だと思うけど」
よく言われるだろ、と、これまた真顔で訊いてくる。
「ほ…ほ〜う」
出流はハッハッハ〜と、乾いた笑いを浮かべた。
「お前の方が、絶っっ対ヘンッッ」
ふっ…
「そうか?」
周りに関心がない様でいて、以外にも負けず嫌いな一面を見せた出流に、慶介が柔らかく目元を綻ばせた。
なんだよ
笑うと案外
カワイイんじゃ
ないか
「変な奴っ」
「はははっ」
その日、寮に戻った慶介は、「呼び出しくらってたみたいだけど、大丈夫だったのかな〜?」と出流を心配していた日高に、職員室での出来事を話した。慶介と出流は同じクラスだが、日高はクラスが違うため、学校では出流と話す機会がなかったらしい。
「ああ…、西原んとこは、早くに母親亡くしてるからな。親呼ばれるとなると、親父さんが来る事になるからマズイと思ったんじゃないかな。会社とかもあるだろうし」
「そうなのか……」
日高がゲームのテレビ画面へと意識を集中させ始めたので、慶介も自分の机に向かい、授業の復習を始めたが、その日は何故だか、なかなか勉強に集中する事が出来ないまま時間が過ぎた。