You are my
reason to be…
7
「慶介は、小さい頃に父親をなくしてて。確か…3年の時だったかな、母親が再婚したんだけど――」
「なあ、志村ぁ
新しいお父さんて、どんな人?」
「……知らない
『新しいお父さん』
なんていない」
「はあ?何言ってんだよ、お前のおばさんサイコンしたんだろ?
あれ?何
もしかして、新しいお父さんに妬いちゃってる?
まさかお前って
マザコンなの?」
「相手の顔も床も関係なく殴りつけて、慶介の手も血だらけ、傷だらけで…本当に酷いもんだった」
出流(いづる)は、現在の慶介を見ている分には想像もつかない話に、言葉を失った。
「だからって、こんな話で急に慶介と距離を置いたりしたら…、俺…、あんたの事、遠慮なく殴っちゃうかもよ」
そっちから訊いてきたんだもんな、と悪戯っぽく笑う。
「………だろうね。勝てそうにないし、気をつけるよ」
「じゃ、他に質問は?」
「ん…、今はない」
「まあ、基本的には本人から直接訊きなよ」
そう言うと、椎名は出流に優しく笑いかけた。
「それにしても、二重人格だなぁ、あんた。AB型だろっ」
「う゛っ、正解…」
でも、二重人格はA型だぞっ、ABは多重!と、椎名は妙な反論をしてきた。
(もっとヒドイじゃないか…;)
どんな気分だろうか――
新しい父親…
変わっていく家庭…。
志村はそれに馴染めたんだろうか。
もし馴染めなかったら…?
俺は必要ないんじゃ
ないの?
在ない方が
いいんじゃないの?
そう…それは俺もずっと抱いていた不安…疑問だった。
俺は何の為に………?
「父さん…、俺がいない方が楽だよね」
「…………。
どうだろうな……」
否定してほしかった…。
たとえ気休めに過ぎないとしても。
志村……
「慶介」
一学期の終業式を終え、放課後の教室で名前を呼ばれて顔を上げると、ドア付近に椎名が立っていた。肩にバッグを下げているところから、これから部活に向かうのだろう。椎名は、187cmという恵まれた体格もあって、1年生ながらにバスケ部レギュラーという実力の持ち主だった。
「どうした?」
「お前、明日からどうすんの?実家帰る?」
「いや、今のところその予定はないけど」
慶介の言葉に、椎名は「はあーっ」とわざとらしく溜息をついてみせる。
「仕方ない、サビシイお前の為に週三で訪ねてやるか」
「はっはっはっ。それは来過ぎだよ」
来ると言うからには、椎名ならたぶん本当に来るのだろう。
「言っとくけど、俺も居るからな」
そこへ、慶介の後ろから出流がぬっと顔を出した。
「あれ?出流ちゃんも夏休み中、ずっと寮にいるの?」
「そうなのか?」
椎名に続いて、慶介も意外そうに出流に尋ねる。
「ウン」
「なんだ、じゃあ俺がそんなに行かなくても退屈しないな」
そう言った椎名の言葉に「そうだな」と笑う慶介に、出流は何故だかとてもくすぐったい気持ちになる。自分が居る事によって、慶介が退屈しないと思ってくれている事が嬉しかった。