You are my
reason
to be


「慶介は、小さい頃に父親をなくしてて。確か…3年の時だったかな、母親が再婚したんだけど――」







なあ、志村ぁ
新しいお父さんて、どんな人?

「……知らない
『新しいお父さん』
なんていない」




「はあ?何言ってんだよ、お前のおばさんサイコンしたんだろ?

あれ?何
もしかして、新しいお父さんに妬いちゃってる?

まさかお前って


マザコンなの?







「相手の顔も床も関係なく殴りつけて、慶介の手も血だらけ、傷だらけで…本当に酷いもんだった」


 出流(いづる)は、現在の慶介を見ている分には想像もつかない話に、言葉を失った。

「だからって、こんな話で急に慶介と距離を置いたりしたら…、俺…、あんたの事、遠慮なく殴っちゃうかもよ」
 そっちから訊いてきたんだもんな、と悪戯っぽく笑う。
「………だろうね。勝てそうにないし、気をつけるよ」

「じゃ、他に質問は?」
「ん…、今はない」
「まあ、基本的には本人から直接訊きなよ」
 そう言うと、椎名は出流に優しく笑いかけた。

「それにしても、二重人格だなぁ、あんた。AB型だろっ」
「う゛っ、正解…」
 でも、二重人格はA型だぞっ、ABは多重!と、椎名は妙な反論をしてきた。

(もっとヒドイじゃないか…;)







 どんな気分だろうか――

 新しい父親…

 変わっていく家庭…。


 志村はそれに馴染めたんだろうか。


 
もし馴染めなかったら…?





俺は必要ないんじゃ
ないの?



在ない方が
いいんじゃないの?


 そう…それは俺もずっと抱いていた不安…疑問だった。



俺は何の為に………?








父さん…、俺がいない方が楽だよね


…………。

どうだろうな……










 否定してほしかった…。

 たとえ気休めに過ぎないとしても。







志村……








「慶介」

 一学期の終業式を終え、放課後の教室で名前を呼ばれて顔を上げると、ドア付近に椎名が立っていた。肩にバッグを下げているところから、これから部活に向かうのだろう。椎名は、187cmという恵まれた体格もあって、1年生ながらにバスケ部レギュラーという実力の持ち主だった。

「どうした?」
「お前、明日からどうすんの?実家帰る?」
「いや、今のところその予定はないけど」
 慶介の言葉に、椎名は「はあーっ」とわざとらしく溜息をついてみせる。
「仕方ない、サビシイお前の為に週三で訪ねてやるか」
「はっはっはっ。それは来過ぎだよ」
 来ると言うからには、椎名ならたぶん本当に来るのだろう。

「言っとくけど、俺も居るからな」

 そこへ、慶介の後ろから出流がぬっと顔を出した。
「あれ?出流ちゃんも夏休み中、ずっと寮にいるの?」
「そうなのか?」
 椎名に続いて、慶介も意外そうに出流に尋ねる。

「ウン」

「なんだ、じゃあ俺がそんなに行かなくても退屈しないな」
 そう言った椎名の言葉に「そうだな」と笑う慶介に、出流は何故だかとてもくすぐったい気持ちになる。自分が居る事によって、慶介が退屈しないと思ってくれている事が嬉しかった。


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