You are my
reason
to be

10


「おじゃましまーす」

 慶介が熱を出して以来、椎名は3日と空けずに寮を尋ねていた。さすがの出流(いづる)も「ジャマするなら帰れ」と関西人ばりに返したい所だが、いかんせん椎名は慶介の客だ。出流が追い出す権利はなく、仮に追い帰したとしても、その時は慶介も一緒に、椎名の一人暮らしだというマンションに連れて行かれてしまうだろう。椎名の気持ちを知っているからにはそっちの方が心配だ。

 今二人は、床に広げたスポーツ雑誌と思われる物を見ながら、どの選手がどーのと話しているのだが…。

(近くないか…?)

 二人の肩はピッタリとくっついていた。いつもの事なのか、慶介にもそれを気にする様子は無い。…が。

(近いだろ…)

 出流は出流で、ゲーム雑誌を読む振りをしながら思わず凝視していると、ふと椎名が顔を上げた。

 ニッ……

(何だその笑いは!!)

「出流ちゃんも、こっちおいでよ」
 椎名が、ニコニコ笑いながら手招きする。
「俺そういうの、よく分かんないんだよね」
 言いながら、慶介の横に移動した。もちろんシッカリくっついて。
 慶介は、右に出流、左に椎名と、ピッタリ挟まれる形となり、さすがに「?」と疑問を感じたが、基本的にボケている為、特に気にしてはいなかった。

(志村、少しは危機感いだけよ…;)
 なんだか、少し心配になってしまう。
 左に視線を向けると椎名と目が合った。相変わらずの笑顔で、なぜだかとても楽しそうだ。

 本当に、よく分からない。
 慶介を取り合うような素振りを見せたかと思えば、今のように晩生な出流を手助けするような事もする。
 実際、出流は椎名が居ると、対抗心などもあり、いつもよりも少し大胆な行動に出る事ができた。
 かといって、ここで感謝する気持ちになれるほど、出流はお人好しではないのだが…。







 「なんかさぁ…、せっかくの夏休みなのに、こう室内でばっかり居るのももったいないよね」
 今日もやはり、二人の元を訪れていた椎名がふと、宙を見つめながらつぶやいた。
「どっか行く?」
「海行こう!」
 出流が尋ねると、言い終わるかと同時に勢いよく言葉が返ってきた。

「海かぁ、…混んでない?」
「泳げなくて良いなら、穴場知ってるよ。今から行こう!」
「え!?ちょと、今から?」
「今からだと門限までに帰れないぞ」
 今日の話ではないと思っていた出流は驚き、それまで2人のやり取りを聞いていた慶介が、冷静なツッコミを入れる。

 すると、椎名はそんな二人に悪戯っぽい笑顔で片目をつぶった。
「俺の部屋に泊まればいいじゃない。夏休みなんだから、外泊許可くらいとれるでしょ?」
 一人暮らしの友人の部屋は、こういう時に利用しないとね〜、と自分が持ってきた荷物をまとめ始める。

 意外と強引な男だと思いつつも、出流は、急遽決まった予定に胸を弾ませている自分も自覚していた。
 慶介も、心なしか嬉しそうだ。
 そして、考えてみると友人の家に泊まるという経験自体、初めての事だと思い至り、さらに胸がときめいた。

 ライバル宣言された時には、どうなる事かと思ったが、椎名は意地悪っぽくしつつも、むしろそれまで以上に出流に優しい。
 最早、出流が今まで経験した事のないものを色々くれる大切な友人となっていた。

(これでライバルじゃなかったら、もっといいんだけど…)

 世の中、うまくいかないな…、と心の中で嘆息した。


  小説 TOP