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14


 華宮高校では、毎年9月に1年生のみ課外授業≠ニ称した遠足がある。
 高校生にもなって遠足≠ニいうのは概ね不評だったが、行ってみれば其れなりに皆 楽しんでいるということで、毎年欠かさず行われていた。

(バスの席順が自由なのが救いだな)
 出流(いづる)は隣の席の慶介を見やった。
 バスの揺れが心地良いのか、慶介は先程からうつろな視線でフラフラと頭を揺らしているのだ。

(乗物に乗ると眠くなるとかって、子供みたい)

 こういう姿を見られるのは同じクラスの特権だな、と思わず笑みがこぼれる。
 後で椎名に報告しよう、と一人ニヤニヤしていると、慶介とは反対側の隣の席から視線を感じた。

「楽しそうだね、西原君」

(何で理事長が課外授業について来るんだよ…)
         出流の、通路を挟んだ隣の席では、理事長の后(きさき)が聖職者というよりはホストのような胡散臭い笑顔を浮かべていた。
 この1年A組が乗るバスには、担任・副担任の他になぜか理事長が同乗しているのだ。

「生徒がそんなに楽しんでくれてると、先代も喜ぶよ」
 后が柔らかく笑った。
 そういえば、后は先代理事長の外孫…、つまり先代は后にとって母方の祖父であると聞いたのを思い出す。いつもの含みのあるような笑顔とは違う先程の笑みに、本当に先代の事が好きなのだと感じられる。
 后は次男だという事だったので、后コンツェルンの会長は、いずれ現会長の祖父から父親を経て、兄が継ぐのだろうが、様々な分野で成功を収めており、海外にも支社を持つ企業なだけに、重要なポストはまだ沢山あるのだ。
 それがなぜ、母方祖父の後を引き継いで理事長なのか…。そこにはやはり、先代理事長との絆があるのだろうか。

(なんとなく、男好きだから=cってゆう理由も、あり得なくもなさそうなんだけど…;)







「なんかさぁ〜…」
 バスを降りて合流した椎名が、ぼんやりと空中を見ながら呟いた。
「ん?」
「俺は別に、遠足自体には異論はないんだよ。たまにはこういう行事もあった方が、学校生活にメリハリが出て勉強にも身が入る…って事だろうからね」
「うん。俺もそれはあると思う」

「ただ、高校生の遠足で、動物園ってどうなの?」

 そうなのだ。今年の遠足場所は誰が決めたのか、動物園なのだ。
 今日は平日のため入園者はまばらだが、その誰もが家族連れやカップルばかりだった。
「いいじゃん、なんか慶介嬉しそうだしっ」
 出流が、少し頬を赤らめて椎名を見上げた。
 動物好きな慶介は、子供のように目を輝かせて、今も目の前の狼に夢中だ。柵に取り付けられた説明文を読むよりも、ひたすら動物を見つめているあたりが、なんとも慶介らしかった。
「それもそうか」
 その微笑ましい光景に、椎名もクスリと苦笑をもらした。

「狼、カッコイイな」
 出流は慶介の横に並んだ。
「うん。…撫ぜてみたい」
 出流も動物は嫌いではないが、狼のような身体の大きい肉食獣に触りたいとまでは思わない。
 慶介は、学校内に頻繁に現れる白い猫(シロと呼ばれている)とも仲良しで、シロに構っている時の慶介は、シロが可愛くてたまらないという表情で、いとおしそうに毛並みを撫ぜるのだ。
 そんな慶介だからこそ、直接その手触りを確かめてみたいという衝動に駆られるのだろう。

(ムツゴロウさん…?)







「はい、これが慶介ので、こっちが出流ちゃんの」
「ありがとう」
「ありがとう、椎名。すっごい、ほんとにお弁当だ…」
 昼食は、寮生のほとんどがコンビニ弁当を買ってきており、その他は園内の売店で済ませている。出流と慶介も園内で何か買って済ませようと思っていたのだが、椎名から「300円で手作り弁当を作ってやる」との嬉しい申し出があった為、それに甘える事にしてみたのだ。

「おいしい…」
「そ?良かった」
 出流は3歳で母親を亡くしている為、このように手の込んだ手作り弁当は食べた事がなかった。なんだか暖かいようなムズ痒いような、それでいて少し寂しいような複雑な気持ちになる。

「椎名って、お母さんみたいだな…」
「ぶっっ!」
「あはははは」
 複雑な感情を遮るように出流が発した言葉に椎名が噴き出すと、慶介が声を上げて笑った。
 椎名は頬を赤らめて慶介を睨むが、直後何かを思いついたようにニヤリと笑う。

「じゃあ、慶介がお父さんだな」
「ええ!?なんでだよ!」
「出流ちゃんじゃ、お父さんって感じじゃないでしょ。だから俺がお母さんならお父さんは慶介で、出流ちゃんは俺達の子供」
「ヤだよ!ダメダメっ!!」

「は…はは……」

(なんの話だ?;)


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