You are my
reason
to be

16


 2人きりの日曜日、特にする事の無い出流(いづる)は、自分のベッドの上で壁にもたれてボンヤリしていた。慶介は、これまたボンヤリと窓辺に立って外を眺めている。シロを待っているのだろうか。
 どちらも無口な方であるため、会話が弾む事はめったにないのだが、2人の間には、お互いに沈黙が苦にならない相手という安心感があった。

 ふと、思いついたように慶介が振り向いた。
「出流…、暇なら栗拾いに行かないか?」
「へ?栗拾い?」
「昔…、一度義父に連れて行ってもらった所があるんだ」







 寮を出て20分程歩くと、山の裾野から一面の林が広がっていた。
「疲れてないか?」
「ん、このくらいは平気」
 自分を気遣ってくれる慶介の優しさに、思わず足取りも軽くなる。
(ああもう慶介、そんなに俺を惚れさせてどうするつもりだっ?)
 などと出流が考えているとは、慶介には知る由も無い。

 木造の小屋のような建物に辿り着くと、慶介はきょろきょろと辺りを見渡し、何かを探しているようだった。どうやらここで栗拾いが出来るらしく、広大な栗林と、キノコを栽培しているらしい木材が置かれてあった。
 やがて小屋の中から作業着を着た男性が出てくると、慶介は
「済みません」
 と声を掛けた。

「はい」
「あの…、ここに居た犬は…」
(犬を探してたのか…)
 じゃあ、慶介の事だから目的は栗よりもむしろ犬の方だな、とこっそり苦笑する。
 しかし、それを聞いた作業着の男は、困ったように少し笑った。

「ああ…、ハナなら去年死んだよ」

「そう…ですか。去年…」
「慶介…?」
「あ?ああ。…犬が…居たんだよ」







「お兄ちゃん、犬がいるよっ」

ワン!ワウッ ガウッ!

「何だ、凶暴な犬だなぁ」
「恐いわねぇ。智穂っ慶介、いらっしゃい」

ワンッガウ!

「はぁ〜い」

違う……。
怯えてるだけなんだ。


 必死に吠えているのに、瞳がなにか寂しげで…


 栗の事なんてもう、どうでもよかった。

ワンッ!ワン!

 慶介は、その場を離れる気分にはなれず、鋭い牙を剥き出して吠え続ける犬の前にしゃがむと、その瞳を見つめた。

なあ、どうしたら分かってくれる?

お前も寂しいんだろ?








俺もだよ……



クゥ…ン



 どれくらいの時間が経っただろうか…。
 やがて吠えるのをやめた犬は、遠慮がちに尻尾を振り、クゥと甘えた声をあげた。

分かって…くれた?


 まるで気持ちが通じたように尻尾を振り、甘えてきてくれた事が嬉しくて、ずっとずっと撫ぜ続けた。 外につながれていたせいで、ホコリと油で手が黒くなってベタついたけど

 そんな事もどうでもよかった。







「…帰ろっか?」
「……うん…」
 何かを思い出すように宙を見つめる慶介に声をかけると、出流の声に振り向いた慶介が静かに頷いた。


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