You are my
reason
to be

17


 帰り道、出流は物思いに耽る慶介を邪魔しないように、少し後ろを歩いた。
 手を伸ばせば届く距離、視界には入らない位置。今慶介は、自分の感情を一人で処理しているのだ。邪魔をしてはいけない。

(慶介……)



 風の息づかいに乗せて、慶介の心が伝わってくるような気がした。


 寂しくて

 切なくて…


 でも、なぜだかそれが、出流には少し温かく感じた。


それは



俺の中にも
眠っていた感情
だからだろうか…








「あ…。悪い、栗拾うの忘れてたな…」
「え?ああ、いいよ別に」
 やっと出流の存在を思い出したように振り返った慶介に、苦笑してかぶりを振る。
 尚も「悪い」と謝る慶介に「いいって」と返しながら、歩調を合わせて隣に並んだ。

 ふと、視線を前に向けた慶介が、弾かれた様に顔を上げた。
「?」
 出流が慶介の視線を追ってみると、前方50m程の位置に犬を連れた中年の男性が横切って行くのが見える。白地に黒の特徴的な模様は、たぶんボーダーコリーだろうか。

 こちらに気がつき顔を上げてきた犬に、慶介が首を傾げて微笑み掛けた。
 と、その犬はその場に座り込み、じっとこちらを見つめてきたではないか。まるで2人が来るのを待っているようである。

「うあっ、メチャメチャ見てるっ」

(慶介…だよな、やっぱ;)

 前方では、突然座り込んでしまった犬に、飼い主の男性が歩くように必死で促しているが、犬の方はこちらを見つめたまま、尻尾まで振ってしまっている。

 プッ

「アッハッハッ慶介といるとホント飽きないなぁ〜」
 出流はとうとう、お腹を抱えて笑い出してしまった。
「そ…、そうか?」
「ウンッ。楽しいよ」



 ふっ…


ああ…

この顔

この表情だ



この表情を

見るのがすごく

…好きだ



首を傾げる角度が
好きだ

柔らかくなる目元が
好きだ



好きだ ―――








 あと少しで華宮の寮が見えてくるくらいの所で、前から長い髪の少女が歩いて来るのが見えた。155cmくらいのスラリとした体形で、遠目にもとても可愛らしい顔立ちをしているのがわかる。

「あ…」
 慶介が声をもらした。
「志村君っ」
 サラサラのロングヘアーを可憐に揺らしながら駆け寄って来た少女は、近くで見てもやはり可愛かった。

「久しぶり、阿川」
「久しぶり。…ん〜、もしかして、隣にいるのが出流君?」
「え?…ああ、伊澄に?」
「うん。もう、最近は出流ちゃんの話ばっっかり。かわいい、かわいいって。彼女の前でよく言うわよね。実際見るとホントに可愛いけど」

え?

「あ、これ中学の同級生で、伊澄の彼女」
「阿川理沙子(あがわ りさこ)です。よろしくね」
「よろ…しく。西原出流です」


 はあああああっ!?


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