You are my
reason to be… 2
「ええっ!?正月も帰らないの!?」
「帰らないよ。帰る理由ないし」
日高は、なんでもない事のようにアッサリと言い放つ出流(いづる)に戸惑いつつ、隣の慶介(けいすけ)に視線を向けた。
「志村も…、寮に残るのか?」
「…ああ―――」
俺には
帰れない…
帰りたくない理由がある
「でもま、正直なところ言っちゃうと…」
寂しげな表情を見せた慶介に、出流はそっとすり寄り、慶介の瞳を見つめて言った。
「俺は家で過ごすより、慶介と一緒に居たいから…」
な?と、おどけたように顔を寄せてくる出流に、慶介も思わず笑みがこぼれる。
「うん」
そして
残りたい理由も…ある
慶介のベッドの上でイチャイチャと微笑み合う二人を、同室者の日高と伊藤は呆れ顔で見つめていた。
伊藤に至っては顔が真っ赤だ。
「憚らないなぁ〜」
もう慣れたけど、と日高がつぶやくと、
「はははっ。イイだろー」
と、出流はますます慶介に身体を密着させる始末だ。
知らぬ間に公認カップル≠ノなっていた事実を、椎名(しいな)に聞かされてから、出流は完全に開き直っていた。
どうせバレているのなら、こそこそする方がかえって恥ずかしい。
日高に見せ付けるように抱きついてきた出流を、慶介は優しく受け止めた。
つまらない
つまらない日々の色が変わる
この瞬間を、焦がれていた…
「んじゃ、俺たち帰るな」
「もう戻って来るな〜」
「ひでぇ…;」
「ハハハ…;じゃあ、来年まで元気でな」
冬休み1日目。出流と慶介は、実家へと帰る日高と伊藤を見送った。
大体の寮生は、今日か明日には実家へと戻り、冬休みの間を過ごす。休みの間も部活などに出る生徒は、寮に残っているが、部活が休みになる年末年始まで家に帰らない生徒は、ほとんどいなかった。
「………」
ギシ…
慶介が両足を投げ出すような形で上体を起こして座っているベッドの上に、出流が、慶介の太ももに片手を添えながら座ってきた。
首を傾げる慶介に、にっこりと笑いかけると…。
「ほら。二人っきりだゾ、慶介」
「へ?ウン」
どした?改まって、とキョトンとしている慶介を無視して、出流は慶介の着ているシャツのボタンをパチンと外した。
「い…っ、出流っ!?」
さすがに慌てた慶介が、出流の手を掴み、止めようともがくが、
「なんだよ…」
と、睨まれてしまった。
「ちょっ…と、な、何を…?」
「ナニとか訊くなっ!さすがに恥ずかしくて言えるかっ」
(え!?)
やっぱりそうか…、言うのもはばかられるような事をしようとしているらしい。
「ま、待て。俺たちはまだ学生で、そもそも今はまだ昼間だし…っ」
「いいんだよ!」
(ええ!?)
驚いた慶介が目をぱちくりさせていると、出流は瞳を伏せて、震える声で呟いた。
「いいんだよ…。他の奴なら、いつだって死んでも嫌だけど、
慶介だから…、
いつでもいいんだ」
「出流…」
しおらしい態度に、一瞬流されそうになるが、すぐに我に返る。
「けどなぁ…;」
「いいのっ」
尚も踏ん切りがつかないらしい慶介に、痺れを切らした出流が覆い被さった。
「おっおいっっ、コ…、待っ…!」
「待たないーっ」
バタン
「いやぁ〜、忘れもんしち…
っ…た…。…ぁ…」
先程、伊藤と共に部屋を出たはずの日高が、ドアを開けたままの姿勢で固まっていた。
今の慶介の姿は、自分のベッドの上で出流に乗っかられて、服を剥かれている所だ。出流はドアに背を向ける形だが、慶介とは出流の肩越しにバッチリ目が合ってしまった。
(タカめ…、わざとやってんじゃないだろうな…)
振り返って怒りをぶつけたいところだが、あえて無視する事にした。無言の背中が「早く出て行け」と語っている。
出流の無言の怒りを察知した日高は、「ああ、コレコレ、財布ね。ウン」などと、わざとらしく言葉に出しながら目的のものを見つけると「ごゆっくり」という言葉を残してパタンとドアを閉め、外から鍵をかけた。
反応のない慶介に視線を向けると、扉を見つめたまま、真っ赤になって固まってしまっている。
そんな慶介に、
「『ごゆっくり』だって」
と、にっこり笑って更に追い討ちをかけてみる。
「い…出流、やっぱり昼間からこういう事は…、その…」
「四の五の言うなっ」
「うわっ、待っ…」
バフッと音を立てて、出流が慶介を押し倒した。