Happy birthday
to be…


「おはよう、椎名。大丈夫か、怪我。どこか折れてなかったか?」
「おはよう、幸い大したことない。ちょっと見た目はやられちまったけど」

 翌日、シップと痣だらけで登校した伊澄(いすみ)を、皆は遠巻きに見ていた。
 ただ一人を除いては…。

「そうか…、強いとは聞いてたけど、椎名は丈夫なんだな」
(なんだその感想は;)

 慶介とは小学校でも一度、同じクラスになった事があったが、その時には特に接点がなく、ちょっとした暴力沙汰を起こした…という以外には何の印象も残っていなかったのだが、
「打たれ強いと言ってくれ」
「ははは、なるほど」
 この物怖じしなさは好ましいと思った。

「…あのメール、本当だったんじゃね?」
 ふいに、クラスメイトの一人がコソコソと話している声が聞こえた。

(ああ…、そういえばなんか撮られたんだったな…)

 今の伊澄には、どうでもいい事だった。むしろ好都合だ。
 あんな3人に負けたとなれば、喧嘩を売ってくる連中も少しは減るだろう。もう、今までのように片っ端から買っていくような気分にはなれない。

(ジャンジャン回してくれ、ジャンジャン)





「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「…お帰りなさい」
「ただいま、清澄、
…清子さん」

 学校から帰宅すると、廊下で清澄と義母に出くわした。
「お兄ちゃん、今日ね、お母さんがクッキーを焼いてくれたんだよ!一緒に食べようっ」
「…悪いな、お兄ちゃんは学校の宿題があるから――」
「伊澄さん、遠慮は…いりませんよ」
 断ろうと、ありもしない宿題を持ち出そうとした所を義母に遮られ、一瞬面食らう。

「俺も…、ご一緒してよろしいですか?」
「…ええ」
「じゃあ僕、お茶もらって来るね!」

 清澄が駆け出して行ってしまい、二人で義母の部屋へと向かう。廊下を歩く間、二人は無言だった。

「どうぞ…」
「失礼します」
 この部屋に入るのは初めてだった。この家に来た2日目のあの日、部屋の前にまでは迷い込んでしまったのだが…。

 間に和室用のテーブルを挟んで、向かい合う形で座ったまま、しばらく沈黙が続いた。
「伊澄さん…」
 ふいに、義母が口を開く。
「はい」

「その怪我は、清澄を守ってできたそうですね…」
「っ、…いえ、これは」

「清澄を守ってくれて…ありがとう」
 義母がゆっくりと頭を下げた。

「清子さん…」

 伊澄は義母が、幼い自分に冷たくあたった日々を後悔しているのを感じた。
 自分に子供ができなかった事で、愛人の子である伊澄を引き取ることになり、憎悪の対称にしか見えなかった伊澄も、我が子を産み、心に余裕もできた事で、憎しみが薄れたのであろう。

 仕方がなかったのだ。
 伊澄も今では、あの頃の義母の心情は理解できる。

 仕方がなかったのだ、何もかも…。

「俺の可愛い弟ですから、守るのは当たり前です」

 義母の目頭に、薄く涙が光った。





(ああ〜、寒っ)
 11月に入り、季節は冬へと近付いていた。
 伊澄が今夜あたり雪でも降りそうだと、寒さに肩をいからせて歩いていると、前を歩く慶介の姿を見つけた。
「よっ、志村」
「ああ、おはよう。
あ……」
 慶介が何かに気付いたように、声を漏らした。

「誕生日おめでとう、椎名」



 時が止まった気がした。



「椎名?」
 固まってしまった伊澄の様子に、慶介が訝しげに問い掛ける。


誕生日おめでとう



おめでとう



 見開かれた伊澄の大きな瞳に、みるみる涙が溜まっていく。
「椎…」
 驚く慶介の肩に顔をうずめた伊澄は、震える声で小さく呟いた。

「ありがとう…」


誕生日おめでとう
イスミ






 いつか貴方に会える日の為に

 貴方に誇れるように

 強くなるよ―――


◆END◆


やっぱり椎名は書きやスィ。
これも、自分と同じAB型設定の賜物か?椎名がらみだとドンドン書けます。寺島とかいう、知らない新キャラまで出来ちゃって。自分でも「寺島って誰?」って感じです;
他にも、今のところ浅倉悦司というキャラがAB型設定なのですが、椎名ほど動かしやすくはないだろうな。
あと余談ですが、后には『AB型っぽく見えて、実はA型』という無意味な設定が…。

2006.6.22 途倉幹久


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