You are my
reason to
be… 2


 短い春休みも終わり、華宮高校でも新しく1年生を迎え、始業式が執り行われていた。
 校長先生の、意味があるようで無いような長い話が終わると、理事長の后(きさき)が、二人の若い男女を連れて壇上に上がった。

「それでは、これから今年度から新しく加わる教員を紹介します。
では、レディーファーストという事で、まずは桃井先生から自己紹介をどうぞ」

 后に促され、マイクの前に立った女性は、少女のような幼い顔立ちに、ヒラヒラとしたワンピースを身に着けた(なんか、男子校にお花が咲いた…って感じ)などという感想を出流が抱いてしまうほど、男子校の教師としてはちょっと心配になってしまうタイプの女性だった。

「皆さん、はじめまして。国語教師としてこの学校に来ました、桃井静花(ももい しずか)と申します。教師一年生ですので、色々失敗する事もあるかも知れませんが、どうぞ温かい目で見て下さい」
 生徒がざわつく。出流の周りでも、「かわいい…」「しずかちゃん…」などという呟きが聞こえる。

(ありゃりゃ…、大丈夫なのかね。…ていうか、鈴木先生、めっちゃ怖い顔してる…;)
 華宮にはもともと、鈴木華波子(すずき かなこ)という若い女性教師がいるのだが…、鈴木は、美人だが派手…いわゆるイロモノ′nなのだ。
 今までは、若い女性教師は鈴木だけであったため、生徒たちの人気を独り占めだったのだが。

(こりゃ、ファンが相当流れたな…)

 ご愁傷様、と出流が心の中で鈴木に合掌していると、壇上ではもう一人の教師の紹介に移っていた。

「では、次に有栖先生」
「はい。…こんにちは。これから養護教諭として保健室に勤務することになります、有栖汐瑠(ありす しおる)です。よろしくお願いします」

 有栖と名乗ったその養護教師は、小柄な身長に可愛い系と綺麗系の中間くらいの顔立ちで、こちらもある特定の趣味の生徒たちに人気が出そうだ。

「ちなみに…」
 斜め後ろに控えていた后が、一歩前に出ると、有栖の肩に手を添え、片目をつぶった。
「私が同性としか関係を持たないことは、大半の者には既に知られている事だが…」

(あぁ〜あ、新入生もいるのに…;)
 この后尚也という男には、自分の性癖を隠すとかいう気は、さらさら無いらしい。

「この人は私のものなので、自分の将来が大事なら手出ししないように」
「后さんっ…」
 有栖が驚いたように何か言おうとしたが、后は「しっ…」と右手の人差し指を有栖の唇に寄せた。

「今学期から、理事長室は保健室の隣に移動になった。それから、保健室には監視カメラが設置され、警備室と理事長室で常にモニターされているので、おかしな目的で保健室に出入りしない方が良い」
 后は、そこで一旦言葉を区切ると、不敵に笑い、低い声で更に続けた。

「彼が私のものだという事を、くれぐれも肝に銘じておくように。以上」

(そ…そんな教員紹介あるか;)

 出流は、ふと気になって二階堂を探してみたが、他の教師たちに混ざって座っている二階堂に、特に動揺したような様子は見られなかった。

(二階堂先生と同じ、数いる情夫の一人…って事か?…それにしては、二階堂先生に対するものとは、なんか違う気もするんだけど…)
 わざわざ理事長室を保健室の隣にしたり、保健室に監視カメラを付けるとなると、相当な入れ込みようだろう。ただの情夫では説明がつかない。
 本命ならともかく…。

(本命……)
 しかし、それも何やらピンと来ないのも事実だった。

 桃井、后と共に、少々赤らんだ頬で壇上を後にする有栖を眺めてみるが、どこか艶のある二階堂と違い、やはりとても后の情夫≠ノは見えない。
 幼い…というのとも違うが、何となくそういった色事とは無縁な雰囲気があるのだ。

 結局、益々理事長・后尚也の謎が深まっただけの出来事だった。

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