You are my
reason to
be… 2


「ふっふっふ、歩が三つ」

 …ちなみに「歩」とは、将棋の歩の事だがそんな事はどうでもいい。
 今日から二人部屋。当然、出流(いづる)と慶介は同室希望者≠フ第一希望にお互いの名前を書いたので、一緒の部屋なのだ。
 出流に至っては、第一希望から第三希望まで書ける、全ての欄に慶介の名前を書いた。

「出流ちゃん、ヤラシ〜」

 新しく移動した二人の部屋に早速遊びに来ていた椎名が、苦笑した。
「なんだよ…」
 出流が、椎名を軽く一睨みし、頬を膨らませる。

「だって、そんなあからさまに喜ばれると…」

 なあ?と慶介に視線を向けるが、冬休みに二人きりになった途端、襲われた慶介としては、まさしく的を得た椎名の感想に冷や汗モノだった。

「しょうがないだろ、今までは流石に他の人の目があって遠慮してたんだからっ」

(遠慮…、してただろうか…;)
 結構、見せ付けるようにくっ付いていたような…。
 あれで遠慮していたのだとすると、この先一体どうなるのだろうか…。



「それはそうと、今日の教員紹介のアレは何だ?」
 出流の言葉に、あー、と椎名が宙を仰いだ。
「春休み中にあの人…有栖先生、俺の部屋に挨拶に来たよ。理事長の所に居候する事になりました、華宮で保健医として入るのでよろしく。って」
「え?一緒に住んでるってこと?」
「うん」
「…てことは何?ほんとに恋人…?」

「どうかな…」

 椎名は、口元に指を当て、首を傾げた。
「俺が思うに、有栖先生に悪い虫を近付けさせたくないっていうのは本心だとしても、理事長のもの≠チていうのは、あくまでも下心を持った人間を近づけさせない為の防壁…って感じがするかな。俺のとこに挨拶に来た時の有栖先生の様子からしても、恋人と同棲しますって雰囲気じゃなかったし…」
「へぇ〜…」

「まあ、どっちにしても本気で守ろうとしてる事は確かだろうから、有栖先生にちょっかい出したら、タダじゃ済まないだろうね」
「あの人、何するか分からなさそうだもんな…;」
 三人は、それぞれに想像を巡らせ、とりあえず一生後悔する羽目になる事は確かだろうと思った。







 華宮高校から徒歩10分程の距離にある高級マンションの最上階、そこは他の階とは違い、1フロアに扉が二つ。一つは普段后(きさき)が利用する玄関で、もう一つは有栖の為の物だ。
 それぞれの玄関から中に入ると、一つの共有ルームを挟んで、全く別々の部屋に分かれている。言わば二世帯住宅≠フ様な造りだ。ちなみに、共有ルームは防音設備の整った室内ジムになっており、それぞれの部屋への鍵は異なっているため、プライバシーは完全に守られていた。
 とはいえ、后が共有ルームと自室の間の鍵をかけている事はないのだが、有栖に対しては「私の部屋に客が来る事もあるので、万が一の為に必ず鍵をかけておくように」と口酸っぱく忠告しているのであった。

「后さん……」
 今は、共有ルームではなく、后の自室の一室に有栖が招かれ、酒を飲んでいた。

「ん?」
「…良かったんですか?生徒や先生たちの前で、あんな事を言ってしまって……」
 有栖の言葉に、后は赤ワインの注がれたグラスを掲げ、片目をつぶった。
「もちろん。君は何も心配しなくて良い…」
「でもっ…、これ以上貴方にご迷惑をかけるのは……っ」
 后は、今朝の教員紹介のひとコマのように、有栖の唇に指を当て、言葉を止めた。

「これは私の為なんだ。私が好きでやっている…。

もう、自分の周りで人が傷つけられるのを見たくない……」

「后さん……」
 視線を伏せ、搾り出すように言った后の姿に、有栖の胸も震えた。

 后は、有栖の頬にそっと右手を添えると、潤んだ瞳で囁いた。
「私の傍にいて、私に君を守らせてくれないか……?」
「……っ、はい…。お願い…します」

「汐瑠(しおる)……」


 二人は、傷跡を癒すように互いを優しく抱きしめた…。

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