You are my
reason to be… 2
5
「慶介先輩〜っ」
「椎名」
「……ハイ」
昼休みの屋上、春の陽射しも心地好く……。
「アレは誰だろうか…?」
「えー…っと、中学からの慶介の部活の後輩デス」
心地好く……。
「前からあんなか」
くっ・つ・き・過・ぎ・じゃあ、ありませんか?
「ま……、前から…あんな……カナ?」
……前からなんだな。
慶介もなんだ!デレデレしやがって!(注※していません)
「それでね、山内先生が……」
(誰だよ!山内先生って。連れて来い!)
山内先生とは、中学時代の部活の顧問なので、連れて来る事は出来ないのだが…。
まあ、出流(いづる)が怒るのも仕方がないくらい、この後輩・七瀬幸冶(ななせ ゆきや)は、慶介に密着していた。最早、話しているというよりは、寄り添っていると言った方が正解だろう。
(う〜……、クソッ、慶介の部活の後輩って事は、バレー部だろ?こんな細い腕でボールなんか取れるのかよっ)
七瀬の、出流以上に細い腕をジ…と見ていると、横から椎名が「ちなみに…」と話し出した。
「彼は中学の時からマネージャーだけどね」
なんか、身体弱いらしいよ、と続ける椎名に(身体が弱けりゃ何しても許される訳じゃないゾッ)と、妙な苛立ちを感じてしまう。
身体の弱い後輩マネージャー…、慶介が放っておける訳がない。さぞかし優しかったのだろう。
それは、まるで出流達の事が眼中にないように慶介にくっ付く、彼の姿を見れば明らかだった。
……そしてこれからもずっと、慶介は優しいのだろう。
誰に対しても……。
「………」
なんだか、涙が出そうだ。
自分だって、その優しさに惹かれたくせに勝手な話だが、なんともやり切れない気持ちに、胸が切なく痛む。
小柄という程ではないものの、出流よりも幾分低い身長に弱々しい華奢な体形。決して女性的ではないが、細面なその容姿は繊細な印象を与え、また、慶介を見つめる黒目がちな潤んだ瞳は、小動物のように見えなくもない。
悔しいが、見れば見る程、自分よりも慶介にお似合いのように思えてならない。
「まぁ、一年生の間にまでは、さすがにまだ、出流ちゃんと慶介の仲は伝わってないだろうからな…。そのうち分かると思うけど」
「うん……」
二人の仲を知ったからといって、そこで諦めてくれるとは限らないのだが……。
誰かが本気で慶介を奪おうとした時、自分に慶介の心を引き止める術があるのだろうか…。慶介が自分のもとに留まるだけの理由があるだろうか……。
「伊っ澄センパ〜イ!」
「おっ、ヨォッ、飛鳥(とびと)」
自分と七瀬を比べて、勝手に落ち込んでいると、遠くの一年生らしきかたまりから、明るい髪色の、背の高い少年が駆けて来た。
「こんちゃっス」
「こ、こんにちは」
人懐こい笑顔で挨拶され、軽く後ずさりしながら挨拶を返すと、隣で椎名がクスリと笑った。
「中学からのバスケ部の後輩」
「中津川飛鳥(なかつがわ とびと)でっす」
ん?
中津川飛鳥……
中津川飛鳥…。
「あ、タラシの……」
思わず声に出していた。
「ぶっ!!」
「うわ、ひどいワ、先輩っ……」
椎名は噴出し、飛鳥はオネエ言葉でわざとらしく嘆いてみせる。
「あっ、ご、ごめん!」
「いやいや、確かに飛鳥の女タラシぶりは半端じゃなかったからね」
飛鳥の噂は、出流の中学でも有名だった。確か、共学の砂原北高に、自分に好意を寄せる女生徒を集めてハーレムを作るつもりだと聞いていたのだが…。あれは単なる噂話だったのだろうか…?
「あ、そだ。伊澄さん、向こうに居るの、俺のルームメイト」
飛鳥が手招きし、椎名を連れて行くのに、出流もついて行く事にした。
慶介が、チラチラとこちらを気にしているのにも気付いていたが、この場に一人残されるのは、耐えられそうになかった。