You are my
reason
to be

23


 申し訳程度の外灯が照らす薄暗い公園内で、出流と慶介はブランコを揺するでもなく、隣り合って座っていた。辺りには秋の虫の音が響き、時間が経つのも忘れそうなほどの空気感だった。

「俺…、慶介に1つ謝らなきゃ」
「ん?」
 出流の言葉に、謝られる覚えのない慶介は首を傾げた。

「聞いちゃったんだ…。…その…昔のこと…。大分前に」 そういえば、小学校での事件を出流に話したと椎名が言っていたのを思い出す。
「ああ…。その事なら伊澄から聞いてるよ。別に構わない」
「ゴメン」
「いや、俺も…日高から…」
 実は…、とバツが悪そうに呟いた。
「え?」

「小さい時に、母親亡くしてるって…?」
「ああ…」



「母さんが死んだのは、俺が3つの時だよ。物心もつく前だから、記憶なんかほとんど無くって…、母さんがいなくっても俺は全然平気だって思ってた」
「そう…なのか?」
 困惑気味に呟いた慶介に、クスッと笑いかける。
「うん。そう思ってたんだよ」

「でも…小学校の時、付き合いベタで友達の少ない俺に、担任が言ったんだ…。『お母さんがいない事をなにか言う奴がいるのか?』って…」


そのとたん、俺は
ワケもわからず
悲しくなって

何故だか涙が出た



実際、そんな事で
なにか言われた事なんか
なかったし

友達は少なかったけど
それで満足してたし

イジメられた経験もなかった


そして、その時初めて
気付いたんだ


「『ああ、俺は母さんがいなくて寂しかったんだ…』って」



他人の口から
改めて言われることで

母さんのいない自分≠
認識させられたん
だろうな…



「でも認めたくなかった。

認めてしまえば、寂しくて生きていけなくなりそうで…」

 慶介は黙って話を聞いていた。どこか寂しさを感じさせる虫の音が、二人の間を流れていく。
「………
 慶介に、こんな話をするのは何故だと思う?」

 何故だと思うか、と訊かれても答えが見つからず、黙って見つめる事しかできなかった。
「お前なら、少しはわかってくれる気がしたんだ…」
 言いながら、出流は慶介の座るブランコの鎖を、片手で向かい合うように引き寄せた。

「お前も寂しそうだから…」

 二人の顔の間は、ほんの数cmという距離だった。

「いきなりキスしてやろうと思ったのに、届かないや」
「えっ?」

 何してんだろ、俺。

「…俺とじゃ嫌だった?」
 引き寄せた手を離し、ここからどう誤魔化そうかと俯いたとたん、グイッとブランコごと肩を抱き寄せられた。
 驚いて顔を上げると、目の前に慶介の真剣な瞳が迫る。

「嫌なんかじゃない」

  うわ…

 自然と、出流は目を閉じていた。
 身も心も震えが走る。

なんかすごい…

幸せカモ


 震える唇に、先日の間接的な温もりとは違う、慶介の体温が触れた。


  小説 TOP