とびと とびと 外の夕焼け色が、室内までも染めあげ始めた図書館。悦司と飛鳥は、先程まで飛鳥が 一人で座っていた窓際に、二人並んで座っていた。 とびと わずら 悦司は、「このまま飛鳥が自分から離れていけば、もう煩わしい思いをしなくて済む」と 考えていたはずが、今どこかホッとしている心に戸惑いつつ、両膝を立てて座っている自分 の足先を見つめていた。 とびと しばらく二人無言だったが、飛鳥がポツリと静かな声で話しだした。 「俺…さ、子供の頃はまわりの同い年の奴らより小っさくて、体もガリガリでさ…、イジメられ っ子だったんだ」 「え……」 「同年代の男の子で仲良くしてくれたのは悦司が初めてで…、すげー嬉しくて…… すげー…、大好きだった」 (………) 悦司の心に、何かが引っかかる。 「俺、『悦司』ってちゃんと言えなくてさ、いっつも『エーシ』って呼んでたんだぜ?」 飛鳥は「可愛いだろ?」と、おどけて言うが、悦司はそれどころではなかった。 (ま…さか……?;;) 「俺のちっちゃい時の愛称が『トビー』だったからさ、悦司は俺のこと『トビー』って呼んでた」 「みんなが、トビーの事イジメるの…」 (ウ…ソ………) 間違いない…。そうだ『トビー』だよ、『トビー』…。本名だと思ってた。『とびと』という名前だ と知っていれば、女の子だと思ったりはしなかったのに…。 ちなみに、『トビー』は、外国人の名前だとしても、男名なのだが…。 「悦司?」 とびと うず 飛鳥は、膝の間に顔を埋めるようにして突っ伏してしまった悦司を、首をかしげて見やっ た。 「髪……」 「え?」 うめ 顔を伏したまま、呻くように言った悦司の言葉を聞き返す。 「髪が…違う」 「…え……っ。思い出したのか!?」 やっと顔を上げた悦司は、不服そうに浅く頷いた。 とびと しかし、舞い上がっている飛鳥は、そんな悦司の表情にも気付かず、嬉々として言葉を 続けた。 「そうなんだよ、俺ちっちゃい頃は白に近いくらいの金髪だったんだけどさ、小学校あがった くらいから茶色っぽくなってきちゃったんだよなぁ」 「なんで…あんなに長く伸ばしてたんだ」 『トビー』は、綺麗なプラチナブロンドを腰まで伸ばしていたのだ。 「うわ…スゲェ、本当に思い出してくれたんだな…。あれは何てゆーか、母親の趣味。女の 子がほしかったんじゃないかな?だから、妹が産まれるまでは俺………」 ? とびと あご ふいに飛鳥は黙り込んでしまった。顎に親指をあて、何かを考えている表情…。 妹が産まれるまでは…?妹が産まれるまでは、母親の趣味で髪を伸ばしていた。…ん? 妹が……。 とびと …という事は、自分と会った頃にはまだ、飛鳥の妹は……。 「………;」 とびと おそるおそる隣の飛鳥に視線を戻すと、さっきまでの表情とは一転、ニヤニヤとした笑い を浮かべてこちらを見ていた。 ギャー―――!! |
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