静かな美術室。布製のキャンバスの上を絵の具の付いた絵筆が滑る、独特な音だけが やぶ 響いている。もうそろそろ、二人の乱入者によってこの静寂も破られるであろうが、今では 悦司自身、そんな騒がしさも嫌いではなくなっていた。 それにしても……。 とびと 不本意な事実であったとはいえ、飛鳥の事は思い出すことができた。しかし、中村とは いきさつ どういう経緯で出会っていたのだろうか? そもそも、悦司が子供の頃に住んでいた家では、もっと近くに他の公園が有り、悦司も とびと 普段はそこで遊ぶ事の方が多かった、飛鳥と会った公園にはほんの思いつきで入った所、 とびと ブランコに座って泣いている小さな女の子…ならぬ飛鳥を見つけてしまい、たまに足を運ぶ ようになったのだが、そこの公園は、ブランコが有るだけの広場のような所であった為、 ひとけ とびと いつもあまり人気はなく、悦司も飛鳥の姿が見えない時には素通りしていたので、あの辺で 他の子供と遊んだ記憶はないのだが…。 (あれ?ちょっと待てよ…) 遊んだ記憶は確かにない。ないのだが…。 (もしかして……) 「悦司〜 ![]() 「今日は引き分けか…」 「………」 とびと 二人同時に現れた飛鳥と中村を、悦司は複雑な表情で見つめた。 「悦司?」 「どうしたんだ?浅倉」 悦司の様子に戸惑う二人を見やり、中村に視線を合わせる。 「中村…さ、違ってたら悪いんだけど、もしかして昔、中津川のことイジメてた…?」 「………っ」 あ、当たり? 「それでさ…、もしかして俺、中村のこと蹴っ飛ばした?」 「………」 あ、これも当たり…。 とびと そうなのだ。悦司は一度、飛鳥が数人の男の子にイジメられている場面に出くわした事が とびと あったのだ。自分よりも背の高い男の子たちに囲まれ、泣きじゃくっている飛鳥の姿を見た とたん、頭に血が上った悦司は走り出し、その勢いのまま一番近場に居た一人に飛び蹴り をくらわせた。 「………」 「………」 「…な、なんか色々思い出しちゃったんだな、悦司…」 とびと 気まずい沈黙の中、飛鳥はなんとも複雑な苦笑いを浮かべた。 |
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