必死で勉強を頑張ったのは



一番になれば注目されて

もう誰からも馬鹿にされないと思ったから



二番では意味が無い

一番じゃなきゃ駄目なんだ



一番じゃなきゃ俺みたいなのは





駄目なんだ










「北高に女の子たち集めようと思ったのも、ホントはすげー不安だったからなんだ…」
                      とびと
 帰り道、自ら胸の内を語りはじめた飛鳥の言葉を、悦司は隣を歩きながら静かに聞いて

いた。

「高校に上がったら、俺より勉強できる奴、運動できる奴、背の高い奴とか居て…、また

俺は馬鹿にされてイジメられるんじゃないか…って。だから少しでも多く俺の味方になって

くれる子達を集めたくて、女の子たちに北高受験しろって言ったんだ。

俺…、確実に自分を受け入れてくれる人が近くに居ないと、不安でしょうがないんだよ…。

かっこ悪いけど……」

「ばか……」
             とびと
 悦司は、右隣を歩く飛鳥の左手に手を伸ばし、その手をぎゅっと握った。

「うん…」
 とびと
 飛鳥は握られた手にそっと力を込め、切なそうに笑う。



「受験の前日は緊張して眠れなくてさ、そのせいで寝坊して北高落ちるし…、滑り止めで
         こ こ        いすみ
受けてたのは華宮だけだろ?伊澄さんがいるの知ってたから受けてたんだけど、伊澄さん
               しま
1こ上だし、男子校だし、終いにゃ親に『受験に寝坊するなんて不真面目すぎる』って言わ

れて寮に入れられるし…。俺、泣きそうだったよ……」
                        とびと
 それは確かにキツイかも知れない…。飛鳥にとっては、まさに踏んだり蹴ったりだった

だろう。



「…でも、悦司がいた……」


          とびと
 歩みを止めた飛鳥が、熱っぽい視線で見つめてくる。
                           とびと
 自分から握ったはずの手は、いつのまにか飛鳥の手によって包み込むように握られて

いた。

「悦司がいれば、大丈夫だって思った。…女の子をいっぱい集めたりしなくても、大丈夫だ

って…」



 本当にバカだ。

 お前は、俺なんかが居なくても、女の子達が居なくても、もう大丈夫なのに…。



「それだったら…、お前の方こそ、俺自身が好きなんじゃなくて…、俺が『エーシ』だから好き

なんじゃないのか…?」
           とびと
 悦司の言葉に、飛鳥が不思議そうに首を傾げる。

「なに言ってんの?悦司。悦司自身もなにも…『エーシ』だって悦司でしょ?」

「そ…、そうだけど……」
                 むじゅん
 お前、さっきと言ってること矛盾してないか!?
                とびと                                 とびと
 だったら、『トビー』だって飛鳥だろっ、と思ったが、それを言ったらわざわざ自分から飛鳥

が好きだと告白しているようなものなので、やめた。



「こんな所で、悦司に再会できるなんて思わなかった…」
 とびと          ささや
 飛鳥が溜息のように囁いた。

「これって、『運命』って言わない?」

「…『偶然』だろ」

「ばかだな〜、『偶然』だから『運命』なんだって」

(そ、そうだっけ?;)


                          とびと
 手をつないだまま、楽しそうに歩き出した飛鳥の後頭部を、悦司は心持ち赤く染まった
ほほ 
頬で見上げた。




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CREEP

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