ああ…、あいつと顔合わせたくない……。





 美術室を飛び出した悦司は、1年A組の教室で自分の席に伏せていた。

 いつまでもこんな所に居られる訳でもなく、顔を合わせたくないあいつ≠ニは寮も同室

なのだから、こんな逃避に意味が無い事はわかっているのだが…。
                     なまなま   とびと
 今はまだ、抱きしめられた感覚も生々しい。飛鳥がアホな事を言い出さなければ、あの場

で盛大に赤面してしまっていたかも知れない…。


               とびと
              「飛鳥のこと、好きな訳じゃないよな…?」




 あ〜〜っもう!うるさいうるさい!!



「悦司……」

 カラリと扉が開く音と共に聞こえた声に、ビクリと悦司の心臓が跳ねる。

「こんな所に居た…」
                            とびと
 悦司を刺激しないようにゆっくりと歩いてきた飛鳥は、悦司の机の前から向かい合う形で

床に膝をついた。


                                  とびと
 先程悦司は、直前に何度も連発していたせいで、つい飛鳥を下の名前で呼んでしまった。
 とびと
 飛鳥がそれに気がついていないか、気付いていたとしても、その事には触れずにいてくれ

ると有難いのだが…。
               とびと
「なぁ悦司…、さっきさ…『飛鳥』って呼んだよな?」



 …こいつにそんな気遣いを求めた俺がバカだった…。



「…それは……、咄嗟だったし…、みんなそう呼んでるから…つい…」
                                                   とびと
 やっと両腕の上から顔を上げた悦司が、恨めしげに言い訳すると、妙に優しい瞳の飛鳥

が見つめていた。

「『つい』で呼んじゃうなら、なんで今まで呼んでくれなかったの?」

「………」



「それって…ひょっとして、下の名前で呼べないくらい、俺のこと意識しちゃってたって事じゃ

ない?」



「!!そんな訳ないだろっ!バカじゃないの!?ハゲッ!」



 …うわ、すごいムキになってる。

(可愛い〜〜〜
                             とびと  
 もう一度「ハゲっ」と言って顔を伏せた悦司を、飛鳥は締まりのない顔で見つめた。



「俺は、悦司のこと好きだよ?」

 うるさい。
                           とびと
 「お〜い」と言って悦司の頭をつついてくる、飛鳥の指の感触さえも心地いいと感じてしま

う自分が腹立たしい。

(俺今、絶対赤い顔してる…)

 触るなと振り払いたいが、恥ずかしくて顔が上げられないのだ。

「好きだよ。好き好き、だ〜い好きだ

 …ほんと、黙れ。



「……なんて、ホントは分かってんだよ、俺だって……」
                   とびと
 ふいに、声のトーンを落とした飛鳥が、悦司の頭を撫ぜながら話しだした。

「悦司が俺のこと意識しだしたのは、俺が『トビー』だからだ…って事くらい、俺も分かってる

んだよ。だから、悦司が今の俺を好きになってくれるように頑張るからさ。それまで待てる
            す
から。だからさ、…拗ねてないで、部屋帰ろ?」



「………うん……」

 こんな綺麗な男にここまで言われて、どうやって拒否できる?

 俺がお前を意識してるのは、『トビー』だからだって?お前、自分に自信なさ過ぎだろ。



 自分の学校だけでなく、近隣の学校の女子生徒達からも大人気で、芸能人みたいにファ

ンクラブまであって…。それなのに、この自信のなさは、やはり小さい頃にイジメられた経験
  せ い
の所為なのだろうか…。

 いつも明るく自信満々かと思えば、ふと顔を出すイジメられっ子の面影……。そのアン
                  すで
バランスさに、悦司の心はもう既に捕えられていた。




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CREEP

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