(そろそろ帰ろうかな)

 悦司は時計を確認し、開いていた画材を片付けるため席を立った。
                とびと
 昨日、不吉な宣言をした飛鳥は、今日は一度も美術室に現れていない。
                                しぼ
(さすがに、昨日の今日には来れなかったか。なんか絞られてたみたいだもんな…)


                                                  しいな
 あの後、部活に合流した飛鳥は、先日屋上で紹介された中学からの先輩だという椎名
 いすみ     ひ  ぱた
伊澄に頭を引っ叩かれ、なにやら怒られていた。(悦司はここからそれを呆れ顔で見ていた

のだ)



(ほんとに馬鹿だ…、あいつ)

 あれでテストの成績は良いなんて信じられない。部屋で勉強している所なんて見た事が

ないし、授業態度も決して真面目ではないというのに…。

(世の中って、結構不公平だよな)

 毎日授業の予習復習をしている自分よりも、それを邪魔してくる奴の方が成績が良い

なんて…。理不尽を感じずにはいられない。





「あ……、良かった。…まだ居た…」

「え……?」

 悦司が掃除をしようと、ロッカーからほうきを取り出していると、ドアが開く音と共に一人の

生徒が顔を出した。

「あ…、テニス部の…?」
           なかむらはるき
「うん。俺、B組の中村春樹」

 中村は先日、珍しく美術部の方に顔を出していた顧問の御堂を呼びにここまで来た事か

ら、顔を憶えていた。

「あ、御堂先生、ここには居ないけど…」
                                  かし
 言わなくても見れば分るだろうな、とは思いつつも首を傾げながら告げると、中村は笑顔

で首を横に振った。

「うん、知ってる。さっきまでテニス部で一緒だったから。…ちょっとだけ、美術部見学しても

いいかな?」

「え?それは構わないけど…。今日はもう掃除するだけだよ?」

 悦司がそう言うと、「手伝うよ」と言ってほうきを持った中村を、悦司は不思議な気持ちで

見つめていた。



(見学したいって事は、もしかして美術部に入りたいのかな?…でもここの美術部って、

わざわざ見学する程のもんじゃないんだけどなぁ……)
 かみや
 華宮では、内申点などを考えて何かの部活に所属していたいが、部活動には参加したく

ないという生徒は、美術部に入るのが通例となっていた。名前だけ所属していながら部活

に参加する生徒がいない事から、学校側からの扱いも低く、それは美術の教師がいるにも

かかわらず、その美術教師は美術部の顧問をしていない事からも明らかだった。



 悦司としては、誰も居ない空間で好きなように絵が描けるのが快適で、むしろこの状態を

気に入っていたのだが。




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CREEP