ヘリオブルーレディッシュ
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今まで僕は 覚悟を決めた生一が、無言で涙を流しながらギュッと目をつぶると、不意に体にかかっていた 重みが消え、それと同時に横からボフッと布団が沈む音が聞こえた。 恐る恐る目を開けると、さっきまで生一の上に居たはずの蘭丸が隣で仰向けに寝転がり、 どこか遠くを見るような目で天井を見上げていた。 「蘭…ちゃん……?」 生一が問いかけると、ハァと短く溜息をつく。 「ダメよ…。私が目指してるのはラブラブエッチ≠ネのに、こんなの全然楽しくないわ…」 ちゃんと自分を好きになってもらってからじゃないと意味がない。お互いに後悔するのが 目に見えている。 (ダメなのよ、今は…。チャンスであり、ある意味ピンチなのよっ。……そうよ、私は肉欲に げす 負けたりするような下衆な男じゃないはずよっ…!) 「蘭ちゃん、ごめんなさい…っ。僕、だい―――」 「やめやめっ!こんなのぜ〜んぜんらしくないんだものっ。今の無し!」 大丈夫だから…、と言おうとした生一の言葉を、蘭丸が慌てて遮る。 「ほらっ!もう、今日は一体何があったのか言いなさいっ。言うまで寝かさないわよっ」 いたずら 可愛く頬を膨らませ悪戯っぽく迫る蘭丸につられて、生一からも笑顔がこぼれた。 「せいちゃん……」 蘭丸は、寮での出来事について話しながら、また泣き出してしまった生一の頭を胸に抱き寄 す せ、その髪を優しく梳いた。 げ しかし、話を聞く限り、遙の言動は全く解せない。一体何が目的なのだろう…。 「ごめんね、蘭ちゃん…。僕、泣き虫で…っ…」 グスグスと鼻をすすりながら謝る生一に、蘭丸は微笑んで首を振った。 「良いのよ、泣きたい時に泣けば…」 「でもっ………」 わきま 蘭丸はその明るい性格と、常識や自分と相手との関係、相手の性格などを弁えた上での きぬ 歯に衣着せぬ言動で、既にクラス内の中心的な存在になっていた。 いわゆる 所謂後先考えず言いたい事を言う≠ニいうタイプではなく、普通ならちょっと言うのが ためらわ 躊躇われるような言うべき事≠言うべき時≠ノ言えるので、周りから一目置かれて いるのだ。 生一には、そんな蘭丸が自分なんかを好きな理由が全くわからなかった。蘭丸はよく、生一を 「可愛い」と言うが、そう言う蘭丸の方が生一には可愛いと思うし、他のクラスにだってもっと 可愛い人はたくさん居る。 たくと もちろん蘭丸だって、顔だけならA組の舞や卓翔など、生一よりも可愛いのが居ることも しぐさ 知っている。しかし蘭丸が気に入っているのは顔だけではなく、むしろ生一の仕種や言動など、 その内面が可愛くてたまらないのだ。だが、いかんせん、生一の自己評価はすこぶる低いらし く、自分が好かれる理由がわからないようだ。 実はそんな所も、蘭丸には可愛く思える要因だったりするのだが…。 「せいちゃん…、知ってる?人間はね、大きく分けると強力性性格者≠ニ弱力性性格者 っていうのに分けられるの。まあ、それぞれの特徴は名前のとおりなんだけど。世の中はどうし ても強力性性格者たる者が上≠チていう流れになっちゃう訳よ。だから強力性の人は弱力性 の人にも「自分のように振舞え」って言いがちだけど、それは自分が出来る事を他人にもやれ って言ってるだけの自己中心的な考え方じゃない。足の速い人に「自分のように走れ」って言 われて走れる?絵の上手い人に「自分のように描け」って言われて描ける?私がせいちゃんに 「私のようにハッキリと物を言いなさい」って言っても、それはせいちゃんの性格を完全に無視し た自分勝手な言動だと思わない?」 生一は、ゆっくりと言い聞かせるように話す蘭丸の言葉を、頭の中で必死に噛み砕いた。 ちょと難しい話だが、蘭丸が分かりやすく例を挙げながら話してくれるので、なんとなくではある が、理解することが出来た。 「ちょっと気が弱くて泣き虫だけど、控えめで可愛い。それが私の大好きなせいちゃんの性格 でしょ?せいちゃんはそれを恥じたり、無理に変えようとしなくて良いのよ…」 優しい瞳でそう言う蘭丸に、生一の目にはまた、大きな涙の粒が膨らむ。 「蘭ちゃんっ……」 大好き…、という言葉は、喉の奥で飲み込んだ。二人の好き≠フ意味が違う事は、わかっ ていたから……。 もし自分が共一の事を好きじゃなければ、きっと蘭丸を好きになっていただろう…。 こんなに優しい人に、涙が出るような事を言われても尚、まだ共一の方が好きな理由は――、 やはり遙が言うように、ただの愛着心が変化したものなのだろうか…。 |