「だとしても……」 視線を下げた椎名が、悔しげに声を搾り出した。 あなた 「…だとしても。例え、貴方が俺より数倍大人だったとしても、有栖先生が…、最終的に誰を 選ぶかは分からない」 やはり鋭い。 言葉をきちんと聞いて理解できているだけではなく、その先の分析まで的確に出来てい る。どうやら、口先だけで適当にやり込められる相手ではないようだ。子供だと思って見くび っていたら、とんでもない反撃を食らうかもしれない。 「どっちみち、恋愛感情なんていう不安定ものでは、あの子の心を満たす事は出来ない」 きさき 后は、組んでいた足を組み替えながら言った。そっと人差し指で眼鏡のフレームを押し 上げる。 本腰を入れて掛からなければ、ただ分かりやすいだけの薄っぺらい言葉では、この生徒 は折れてくれそうにない。 「あの子は、そんなものは求めていない」 「そん―――!」 カチャ 「あ……。椎名…君?」 后に頼まれていたお茶を持って、理事長室から直接保健室へと続くドアを開けた有栖は、 いつもとは明らかに様子の違う椎名の雰囲気に、話の邪魔をしてしまっただろうかと、后を うかが 伺い見た。 「ああ、大丈夫だ。ちょっと、からかい過ぎて怒らせてしまっただけだよ」 后の言葉に、ホッと息をつく。 「もう…、ダメですよ后さん。椎名君は純粋なんですから(仮病も出来ない程に)」 (そんな事もないと思うが…;) 「椎名君、これから部活?」 「あ、はい。…もう時間なんで、行きます」 「そう。部活、頑張ってね」 「はい」 やっと笑顔を見せた椎名に、有栖も少し安心する。 「理事長…」 廊下へ続くドアを開けた椎名は、背を向けたまま后に声をかけた。 「うん?」 后が問い返すと、完全には振り返らずに、目線だけをこちらに向けられる。有栖の位置 い からは見えないが、射殺されそうな鋭い視線だ。 「俺…やっぱり、貴方の忠告は聞けません。……おじゃましました」 いぶか 椎名が出て行ったドアを見つめ、フ…と笑みをこぼすと、有栖に訝しげな視線を向けられ た。 「冗談だったのに、本気にしてしまったようだ」 「もう、だからあの子は純粋なんですってば」 (いや、それは無いだろう…;) 忠告が聞けないと言うのなら仕方がない ◆END◆ 遂に直接対決。…というか、まだ対峙くらいか。 椎名に、后の口先に乗せられて有栖に告白させてみようかとか色々悩んだんですが、椎名はそんなアホじゃないだろ、という事で今回はこんな感じに。あ゛〜、この3人はホント悩む;……この先、どうしよう…(オイッ) 2006.12.5 |
Virus 〜棘の森〜
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