「「おはよう」」

「うっ……。おはようございます…」
            ばくすい
 結局、昼過ぎまで爆睡してしまった……。



「では、昼食にしようか。私が作るから、二人で話していなさい」

「はい。お願いします」

「あ、スイマセン…っ」


 すす     ありす  なな
 勧められ、有栖の斜め左のソファに腰掛けると、ふふっと笑われる。

「?」

「今朝よりずっとスッキリした顔になったね。…落ち着いた?」

「…はい。やっぱり人間、寝ないと駄目ですね……」
 いづる       か
 出流は、頭を掻きながら笑って答えた。
                ずいぶん        はくしゃ
 今思い返すと、寝不足が随分とイライラに拍車をかけていた事がわかる。



(殴っちゃったし……)





 やっぱり、慶介とちゃんと話さなきゃ……。








 きさき てせい        ちそう                あ  びた    さといも         いた
 后お手製の昼食をご馳走になり(意外にも、ナスの揚げ浸しや、里芋と豚肉と豆腐の炒め

物、もずくの味噌汁などの和食だった!)寮の前まで、有栖に車で送ってもらうと、遠くから

椎名が歩いて来るのが見えた。



「椎名!」

「!! 出流ちゃん!今までどこに…っ」

 もしかして、ずっと探されていたのだろうか……?

「ご、ごめん、椎名……」

 目の前まで走って来た椎名に頭を下げると、車の窓を開け、有栖が顔を出した。

「ごめんね、椎名君。マンションの前に居たのを、后さんが拾って来ちゃって……」



(そんな、犬や猫みたいに……;)



「はぁ…、良かった……。先生、どうもお世話になりました」
                                         ふきだ
 礼儀正しく有栖に向き直り、頭を下げた椎名に、有栖が「フ…!」と噴出し、ハンドルに
  ぷ
突っ伏した。

「椎名君……、西原君の保護者みたい……っ」

「「 ////; 」」
                     ふる          なが
 ツボにハマったようにぷるぷると震える有栖の肩を眺めて、二人は顔を見合わせ赤面

した。





















「………」
                                                  つむじ
 寮の部屋に戻り、「本当にごめんっ!」と言って、じっと頭を下げ続けている慶介の旋毛

を、出流は黙って見つめていた。



 そっと手を伸ばして髪に触れると、ピクリと慶介の体が震えた。
       ずいぶん
 なんだか、随分長い間触れていなかったような錯覚がする。



「俺も…、殴ってごめん」
         あご つか
 言いながら、顎を掴んで慶介の顔を上げさせる。
                                                あいつ
「本当は俺…、今回の事だけで怒ってたんじゃないんだ……。ずっと…、最初に七瀬に会っ

た時から、嫌だった。……嫉妬してた」



「出流……、ごめん」

「こんなの嫌だろ?めんどくさいよな……」

 自嘲気味に首を振る出流を、慶介は思わず抱きしめていた。

「俺も……、そういうのあるから…」


 うそ
「嘘だ……」

 慶介は無言で首を左右に振ると、遠慮がちに続けた。
                                                   いすみ
「七瀬に会った後、俺が知らない一年生の頭撫ぜてただろ…?それに、今朝だって、伊澄

に抱きしめられてるし……」
               たくと
 知らない一年生とは、卓翔の事だろうか?出流にとっては何の気なしの行動だったが、

それを慶介が気にしていたとは、驚きだった。



「俺は、いつでも不安だよ……」

 慶介が、寂しそうに笑って言った。



 慶介も……?

「なんだ……、慶介も俺と同じなんだ」
                                         てんじょう
 出流は、一気に気がぬけてしまい、はぁー―と長い溜め息をついて天井を見上げた。



「出流も…?」

 驚いたように見つめてくる慶介の頭に、軽くチョップをくらわせる。

「そうだよっ!慶介は鈍いから、余計心配なんだぞっ」

「あ……」

 そういえば、七瀬に好きだと告白された事を思い出す。もちろん、自分には他に好きな人

がいるから、と断ったのだが。



「なんだ、何か思い当たる事でもあったのか……?」

 明らかに動揺した様子を見せた慶介に、出流がジト目で詰め寄る。

「いや…、実は、七瀬に告白されて…、七瀬の気持ちに気付いてなかった事を驚かれ…

て……」

「ふぅ〜〜ん」

 キスされた事は、黙っていた方が良いだろう……。



「も・ち・ろ・ん、断ったんだよな?」

「もっ、もちろん」

 なら良いけど、と短く溜め息をつくと、出流は呆れ顔で呟いた。

「てゆーか、ホントに気付いてなかったんだな……」

「う……、ごめん」


 きょうしゅく
 恐縮する慶介の首に腕を回すと、鼻先が触れ合うほどの距離で視線を合わせた。

「慶介、……好きだ」



「……俺も、好きだよ。……一番傷つけたくないと思ってたのに、…傷つけてごめん……」
 くち べた      せいいっぱい
 口下手な慶介の精一杯の言葉に、胸が熱くなる。



「今夜は、覚悟しろよ」

「……え?」



「しっっっかりと俺の身体に、お前を刻み付けてもらうからな」

「なっ……、い、出流っ…、何言って……」

 真っ赤になってあたふたと慌てる慶介を、出流が「カワイイ奴」などと思っている事は内緒

だ。



 今夜も、長い夜になりそうだった……。




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You are my reason to be… 2

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