「先輩……、ちょっとお話、いいですか?」 「秋本……?」 放課後の教室で、部活に向かうために支度をしていると、廊下から後輩の秋本が慶介を 呼んだ。秋本はバレー部の後輩で、七瀬とは一番仲が良い。たぶん、話とは七瀬の事だろ う。 しゅんじゅん どうしようかと一瞬逡巡するが、断る理由にも思い至らず、こちらを見ている出流に軽く めくば 目配せをして教室を出た。 「い……、出流ちゃん?…何で後つけてんの?;」 「だ…、だって、慶介が『ついて来い』って感じで目配せしたから…」 いや、慶介の目配せの意味は、『ついて来い』ではなく『行って来る』だったのだが……。 (だからって、何で俺まで?;) 部活へ向かうべく、廊下を歩いていた所を出流に捕まった椎名は、困惑しつつも、手の かかる弟に従うように、目の前の二人の影を追った。 (というか、あんまり出流ちゃんにとって楽しい事には、ならないと思うんだけどなぁ……) 椎名の予想通り、たどり着いた空き教室には、うつむく七瀬の姿があった。 「七瀬……」 「先輩、土曜日は…、済みませんでした」 震える声で謝罪した七瀬は、慶介に深々と頭を下げた。 「いや、それは…気にしなくていい」 「でも僕っ……!」 突然勢いよく顔を上げた七瀬は、必死に慶介に訴えた。 「先輩の事、諦めません!絶対、先輩を思う気持ちは誰にも負けない!」 ……なんだと? 「先輩っ……」 そして七瀬は、慶介の首にしがみ付くようにキスをした。 (ああ〜ぁ) すきま 出流と一緒に、ドアの隙間から中を覗いていた椎名は、頭を抱えた。 とっさ 咄嗟の事に弱い慶介は動く事が出来ず、出流にはそれが、好きなようにさせている様に しんとう 見えて怒り心頭だ。 「あっ、いづ……」 バアンッ! 椎名が止めようとするのも間に合わず、出流は、空き教室の引き戸を叩き付けるように 開けた。 「出流!?」 「慶介の浮気者!!昨日あれだけ俺を抱いておいて、何やってんだ!!」 「「「「えっ!?」」」」 からだ 「結局、俺の身体だけが目当てだったんだな!慶介のバカッ!! エロ!!」 そう吐き捨てると、出流は教室を駆け出した。 残された4人(秋本と椎名は、完全なとばっちりだ)は、あまりの衝撃に、誰一人として 言葉を発する事はできなかった……。 ・ ・ ・ 「そうかぁ……」 た しばらくの沈黙の後、耐えかねたように椎名が口を開いた。 のぼ 「慶介もとうとう、大人の階段を昇っちゃったんだな…」 いすみ 「伊澄……///」 せきはん た 「お赤飯焚こうか?」 「…やめてくれ……;」 ひざ うなだ 慶介は、両膝に手をつき、力いっぱい項垂れた……。 |
You are my reason to be… 2
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