「慶介先輩〜っ」



「椎名」

「……ハイ」

 昼休みの屋上、春の陽射しも心地好く……。



「アレは誰だろうか…?」

「えー…っと、中学からの慶介の部活の後輩デス」

 心地好く……。



「前からあんなか」

 くっ・つ・き・過・ぎ・じゃあ、ありませんか?

「ま……、前から…あんな……カナ?」

 ……前からなんだな。

 慶介もなんだ!デレデレしやがって!(注※していません)



「それでね、山内先生が……」

(誰だよ!山内先生って。連れて来い!)

 山内先生とは、中学時代の部活の顧問なので、連れて来る事は出来ないのだが…。
                              ななせ ゆきや
まあ、出流が怒るのも仕方がないくらい、この後輩七瀬幸冶は、慶介に密着していた。
もはや 
最早、話しているというよりは、寄り添っていると言った方が正解だろう。



(う〜……、クソッ、慶介の部活の後輩って事は、バレー部だろ?こんな細い腕でボール

なんか取れるのかよっ)

 七瀬の、出流以上に細い腕をジ…と見ていると、横から椎名が「ちなみに…」と話し出し

た。

「彼は中学の時からマネージャーだけどね」
       からだ
 なんか、身体弱いらしいよ、と続ける椎名に(身体が弱けりゃ何しても許される訳じゃない

ゾッ)と、妙な苛立ちを感じてしまう。



 身体の弱い後輩マネージャー…、慶介が放っておける訳がない。さぞかし優しかったのだ

ろう。

 それは、まるで出流達の事が眼中にないように慶介にくっ付く、彼の姿を見れば明らかだ

った。



 ……そしてこれからもずっと、慶介は優しいのだろう。

 誰に対しても……。



「………」

 なんだか、涙が出そうだ。

 自分だって、その優しさに惹かれたくせに勝手な話だが、なんともやり切れない気持ち

に、胸が切なく痛む。


                          いくぶん            きゃしゃ
 小柄という程ではないものの、出流よりも幾分低い身長に弱々しい華奢な体形。決して
            ほそおもて
女性的ではないが、細面なその容姿は繊細な印象を与え、また、慶介を見つめる黒目がち

な潤んだ瞳は、小動物のように見えなくもない。

 悔しいが、見れば見る程、自分よりも慶介にお似合いのように思えてならない。


          あいだ      さすが
「まぁ、一年生の間にまでは、流石にまだ、出流ちゃんと慶介の仲は伝わってないだろう

からな…。そのうち分かると思うけど」

「うん……」
                        あきら
 二人の仲を知ったからといって、そこで諦めてくれるとは限らないのだが……。


                                          すべ
 誰かが本気で慶介を奪おうとした時、自分に慶介の心を引き止める術があるのだろう
             もと  とど
か…。慶介が自分の元に留まるだけの理由があるだろうか……。


 い  すみ
「伊っ澄センパ〜イ!」
         とびと
「おっ、ヨォッ、飛鳥」

 自分と七瀬を比べて、勝手に落ち込んでいると、遠くの一年生らしきかたまりから、明るい

髪色の、背の高い少年が駆けて来た。

「こんちゃっス」

「こ、こんにちは」
 ひとなつ
 人懐こい笑顔で挨拶され、軽く後ずさりしながら挨拶を返すと、隣で椎名がクスリと笑っ

た。

「中学からのバスケ部の後輩」
 なかつがわとびと
「中津川飛鳥でっす」



 ん?
      とびと              とびと
 中津川飛鳥……。中津川飛鳥…。



「あ、タラシの……」

 思わず声に出していた。



「ぶっ!!」

「うわ、ひどいワ、先輩っ……」
      ふきだ   とびと                 なげ
 椎名は噴出し、飛鳥はオネエ言葉でわざとらしく嘆いてみせる。

「あっ、ご、ごめん!」
            とびと           はんぱ
「いやいや、確かに飛鳥の女タラシぶりは半端じゃなかったからね」


 とびと                                すなはら
 飛鳥の噂は、出流の中学でも有名だった。確か、共学の砂原北高に、自分に好意を寄せ

る女生徒を集めてハーレムを作るつもりだと聞いていたのだが…。あれは単なる噂話だっ

たのだろうか…?




「あ、そだ。伊澄さん、向こうに居るの、俺のルームメイト」
 とびと
 飛鳥が手招きし、椎名を連れて行くのに、出流もついて行く事にした。

 慶介が、チラチラとこちらを気にしているのにも気付いていたが、この場に一人残される

のは、耐えられそうになかった。




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