「じゃあ、行って来る。夕方までには帰るから」

「……いってらっしゃい」











「慶介先輩?」

「え?」
          いづる
 出掛ける前の出流の様子を思い出してボーっとしてしまっていたようだ。


                  こころよ
 出流が、七瀬との事をあまり快く思っていないのは、先日の屋上での様子から気が付い

ていたが、七瀬の事をただの後輩としか思っていなかった慶介としては、どうしていいのか

分からなかった。
              した
 七瀬の事は、自分を慕ってくれる後輩として大事に思っており、しかし出流を大切に思う
                                              なだ
気持ちとは全くの別物なのだが……。結局何も説明できず、出流の気持ちを宥められない

まま今日が来てしまった。



(帰ったら、ちゃんと話した方が良さそうだ)









「慶介のバカヤロウ……」
               むな  つぶや
 一人の部屋で、出流は空しく呟いた。
                                じゅっちゅうはっく     とげとげ
 そういえば、最近まともに話していない。……原因は十中八九、出流の刺々しい態度の
 せい
所為なのだが…。



(こんなんじゃ駄目だよな……)

 一人になって少し冷静になった出流は、自分の態度を反省し、慶介が帰って来たら今ま
                                         にじ      ぬぐ
での態度を謝って、意地を張らずに素直な気持ちを話そうと、目尻に滲んだ涙を拭った。



 慶介ならちゃんと受け止めてくれる。……よね?









 買い物を終え、七瀬に誘われた喫茶店で一服していた慶介は、腕時計で4時を少し回っ

ている事を確認すると、そろそろ帰ろうかと、向かいの席に座っている七瀬に視線を向け

た。

「……?どうしたんだ?」
      うつむ
 赤い顔で俯いていた七瀬は、

「ごめんなさい、先輩……。僕、なんだか具合が……」

 と、申し訳なさそうに弱弱しい声で言うと、また辛そう俯いた。



「歩き疲れたんだな…。大丈夫か?……もう帰ろう。家まで送るから……」

「はい……。済みません」

 七瀬は、中学の頃からこのように突然発熱することがあった。

 そういえば、部活中に倒れて、慶介が保健室までおぶって行った事があったなと思い出

す。

 さすがに、街中でおぶって歩く訳にはいかないが……。









「おじゃまします」
          もた
 七瀬を片腕に凭れ掛けさせながら玄関を開け、人の気配が無いのに気付いた。

「誰も居ないのか?」

「はい……、今日は皆出掛けていて……」

「そうか……」



(まいったな……)

 具合の悪い七瀬を、家族の居ない家にこのまま残して帰るのは気が引ける。

(家族が帰るまで、様子を見てから帰るか)









 ……遅い。



 部屋の真ん中に正座した出流は、イライラと時計を見上げた。

…もう8時を過ぎている。

 夕方までには帰ると言って、部屋を出た筈だ。

(まさか、慶介に何かあったんじゃ……)

 急激に不安に襲われた出流は、携帯で慶介の番号を呼び出し、コールボタンを押した。



 Prrrr!Prrrr!



 突然鳴り響いた携帯の呼び出し音に、ビクリと驚く。鳴っているのは、出流の携帯ではな

い。
                               むな
 おそるおそる音源を確認すると、慶介の机の上で空しく鳴り響く携帯電話の存在があっ

た。

 出流は、力いっぱい携帯を切り、

「……あのバカっっ!」

 怒りに打ち震えた。









 慶介は、出流からメールが入っていないかと、ズボンのポケットを探り、目当ての物が

指に触れない事に気付く。



  ・

  ・

  ・

 あ……。

 携帯忘れた。



(しまった……;)




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