ＧＰ２～麻里＆律子の場合～その１

Gold Plum

第二章

交錯

～麻里＆律子の場合～

一

ⅰ

　お気に入りのベージュのブルゾンを羽織り、

野木崎律子（のぎざきりつこ）は鼻歌混じりに自転車をこいでいた。

　車がこない内に道路を渡ってしまおう。

律子は加速しようとペダルを踏み込んだ。

ふいに果実の香りが鼻を通り抜ける。

熟れすぎているらしく、少し鼻につく甘い匂いに律子は顔をしかめた。

（もったいないな。果実系は収穫できるのが醍醐味なのに）

　どこの家かわからないが、

実ったままの果実を放置しているのだろう。

庭いじりが趣味になったとき、

律子も実のなる木を植えようか悩んだことがあった。

しかし手入れが大変な上に毛虫がつく可能性が高いとを知り、

諦めたのだ。

（私には可愛いお花ちゃんたちだけで十分だわ）

　律子は丹精込めて育てている花を思い浮かべ、顔を綻ばせた。

（それにしても役員会のこと思い出せて本当、良かったー）

　月に何度か子供たちの通っている学校の役員会がある。

律子は庶務の他にお菓子を持参する係も担当しているのだが、

今日の午後からその役員会があることをすっかり忘れていたのだ。

　夫を見送ったあと子供たちを起こそうとした時に思い出し、

財布と上着だけを掴んで煎餅屋まで自転車を走らせたのである。

今はその帰り道で、カゴの中にはお店一押しの醤油煎餅と

おまけで貰った割れ煎餅が入っている。

慌て過ぎて玄関のサンダルを履いてきてしまったが、

律子は満足のいく買い物ができて気分が良かった。

（今回ばかりはあの子たちが寝坊助で助かったわ）

　子供たちの寝姿が脳裏をよぎり、頬を緩める。

創立記念日で学校は休みだが、そろそろ起きている頃だろう。

（朝ご飯がなかったからお菓子を食べたなんて言われる前に

早く家に帰らなくっちゃ）

　律子は再び自転車のスピードを速めた。

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