ＧＰ２～麻里＆律子の場合～その３６

Gold Plum

第二章

交錯

～麻里＆律子の場合～

三

ⅹⅰ

「いいわねー。それにしてもあの鳥どこへ向かってるのかしら」

「さあ、なんか山のほうへ向かってるみたいですけど……」

　何がいいのかよくわからないながらも、麻里は主婦の質問に答える。

見たこともない大きな鳥は更に遠い山へ向かって飛んでいた。

このままでは見失ってしまうかもしれない。

スピードを出そうとペダルに力を込めていると、

前からのんびりした声が届いてきた。

「そうねぇ。ここら辺はまだ葦麻寺だから大丈夫だけど、

もう少し行ってしまうと追えなくなるわね」

　主婦の言葉に麻里は目を剥く。

「え！　な、なんでですか？」

「なんでも何も、森末は獣人の居住区だからおいそれと

人間が入ってはいけないのよ」

「え！」

　そんなことは聞いたことがない。

だいたい獣人とは共存している部分もあるというのに、

居住区が分かれているなんてナンセンスだ。

「そ、そんなのおかしいです！　同じ黄梅市民なのに！」

　なんでそんな七面倒くさいことを、と麻里は主婦に食ってかかる。

だが主婦はこちらの様子に慌てた様子もなく、

ハンドルを持ったまま器用に肩をすくめてみせた。

「仕方ないのよ。それが黄梅にとっては当たり前だから。

あの鳥が葦麻寺で止まってくれることを祈るしかないわね」

「そんな……」

　納得できるわけがない。

これには自分の職務がかかっているのだ。

（確か、しきたりって守らなくちゃならないものなのよね……？）

　それを破るとなると、それはそれで問題な気もする。

（けど、そんなこと言ってたら黄梅市の解放なんて夢のまた夢だし……）

　だめだめ、と麻里はへこたれそうになる自分を叱咤する。

強くかぶりを振って迷いを断つと主婦へ高らかに宣言した。

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