第39回定例研究会 (2000.5.13)

テーマ:大学をベースにした労働教育プログラムの構造と機能
報告者:アンディ・バンクス
(AFL‐CIOジョージ・ミーニー・センター主任研究員)




【報告要旨】

 アメリカにおける労働教育にはジョージ・ミーニー・センターはじめAFL‐CIO、各単産の教育部門などいくつかの種類があるが、その中で大きな基礎となっているのは、大学をベースにした労働教育である。今日の大学をベースにした労働教育の原型は、1930年代に遡る。ニューディール期、ルーズベルト大統領の後押しもあって労働教育の必要性が社会的にも認識されるようになると、ウィスコンシン州立大学を筆頭に各州の州立大学に次々と労働教育プログラムが設置されていった。そこでの労働教育は、成人教育の一環であり、正式な単位としては認定されなかった。労働教育にあたったスタッフは当時の恐慌で解雇された教師たちであり、教育内容は、主に活動家やリーダー向けの団体交渉や苦情処理といったツール・トレーニングであった。1935―55年はアメリカの労働運動の高揚期であり、組合員数が増大した時期でもあったので、組合の圧力によってほとんどの州の州立大学で労働教育が行われるようになり、現在ではその数は45大学にのぼる。

 しかし、最近数十年に及ぶ労働組合の社会的影響力の低下に伴ない、大学における労働教育にもいくつかの変化がみられる。その一つは、講座数の減少である。ただし、大学の単位がとれる講座を求める声が大学内部からも学生からも強まる傾向にあり、大学の単位をとれる講座の割合は増えている。その結果、教育内容も実践的内容よりもアカデミックな内容になりつつあり、一般的に労使協調をうまく進めるための内容が増えてきている。また、教師も組合経験よりも研究者としての資格が求められるようになってきている。こうした傾向はみられるものの、アメリカの労働教育において大学ベースの労働教育のネットワークは依然として大きな勢力となっている。

 AFL‐CIO内部では、1995年以来スウィーニー新執行部の最重要課題である未組織労働者の組織化と相俟って従来の労働教育の見直しが図られ、組織化や戦略的キャンペーンのスキルを備えたオルグの育成に重点が置かれるようになった。そこで今日、上記の大学ベースの労働教育と労働組合の労働教育との結びつきの弱さが、アメリカの労働教育の抱える課題として意識されつつある。即ち、今日の労働教育は、グローバルな企業と闘うためのスキルを草の根におろす必要が求められており、その点でもローカルと連携があり、調査研究、IT技術など戦略的スキルの訓練を得意とする大学ベースの労働教育との連携の強化が求められる、というものである。

 最後に、アメリカの労働教育が上手く機能しているとは決して思わないでほしい、という報告者の弁にふれて一言。各国の社会・教育システムにはそれぞれ違いがあるので、単に日本に存在しないからという理由だけでアメリカの大学ベースの労働教育システムを賞賛することは避けなければならないが、日本で労働教育がうまく行われていない事実を直視し、どのような労働教育が求められているのか、そのためにはどんな対策が講じられなければならないのか、を真剣に議論することが必要なのではないだろうか。


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